理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 ポスター
当院におけるロボットスーツHAL福祉用のリハビリテーション現場導入の取り組み
─HAL使用方法の検討について─
田中 惣治吉葉 崇松岡 慎吾前田 愛宮城 新吾堀米 由美子寺村 誠治木内 典裕
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キーワード: HAL, 効果, アンケート
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p. Ed0821

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抄録
【はじめに、目的】 ロボットスーツHAL福祉用(Hybrid Assistive Limb:以下,HAL)は脚に障害を持つ方や脚力が弱くなった方の歩行機能をサポートする装着型の自立支援ロボットである。当院では2010年5月よりHALをリハビリテーション(以下,リハビリ)現場に導入している。しかし,導入当初はHALの効果や使用方法に関する報告は極めて少なく,一般的に行われているHALを装着し単に立つ・歩くといった方法で使用していた。そこで今回はHALの使用方法を新たに提案し,その前後でHALの効果に変化があったか調査することで,リハビリ現場におけるHALの有効な使用方法を検討したい。【方法】 本研究ではHALの導入初期(以下,導入初期:2010年8月~11月)とHALの使用方法変更後(以下,変更後:2010年12月~2011年3月)の2つの時期に分けた。導入当初,HALの使用法はHALを装着し単に立つ・歩くといった方法であった。変更後は,理学療法士が患者の身体機能・能力や,動作ができない要因を評価し,不足している部分を補うような運動療法をHAL装着下で実施するようにした。例えば,歩行中に膝折れのある患者に対して,股関節・膝関節の筋を強化するためHALを装着し荷重位でステップ練習を行う方法などである。対象は当院でリハビリにHALを使用した患者で,導入初期が脳卒中片麻痺:6名,腰椎圧迫骨折1名:骨盤骨折:1名,ギランバレー症候群1名の合計9名(男性7名,女性2名 平均年齢50±15.1歳)。一方,変更後では脳卒中片麻痺:5名,大腿骨転子部骨折:1名,腰椎圧迫骨折:1名,変形性股関節症:1名,ギランバレー症候群:3名,脊髄損傷:3名,多発性硬化症:1名の合計15名(男性12名,女性3名 平均年齢57.1±18.0歳)であった。HALの効果を調査するためHALを使用した患者にアンケートを実施した。アンケートの内容は「HALを使用して効果がありましたか」の問いに対し,「とてもある」・「ある」・「ない」・「全くない」の4段階で評価した。また,HALをリハビリで2回以上使用した割合をリピーター率として算出した。併せて,HALの使用前後で立ち上がりや歩行の動画を撮影し,動作に変化がみられたか分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 HALの使用と研究の協力に関して,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して口頭・文書にて十分説明し同意を得られてから実施した。【結果】 導入初期において,アンケートで「HALを使用して効果がありましたか」の質問に対し,「とてもある」(11%)・「ある」(33%)と効果を感じた割合は44%と半数に満たなかった。また,導入初期のリピーター率は23%であった。動画撮影では振り出しの改善:1名,歩幅の増大:1名,体幹前傾の改善:1名が認められた。一方,変更後においてアンケートで「HALを使用して効果がありましたか?」の質問に対し,「とてもある」(27%)・「ある」(53%)と答えた割合が80%に増加し,リピーター率は67%であった。動画撮影では立ち上がり動作の努力量軽減:6名,歩行の膝折れ軽減:4名,膝過伸展の改善:2名,体幹前傾の改善:6名が認められた。【考察】 導入初期ではHALの使用方法は一般的に行なわれているHALを装着して立つ・歩くといった方法で行った。しかしこの方法では,アンケートからHALの効果を感じた患者の割合は半数に満たず,リピーター率23%と低かった。この原因として,HALを装着して単に立つ・歩くといった練習では目的が曖昧であり使用後に動作の改善が得られにくいこと,HALを装着しての歩行はロボット様の歩行となり歩きにくいことなどが挙げられる。そこでHALの使用方法として,理学療法士が身体機能・能力を評価した上で,患者の不足している部分に対しHALを装着し練習する方法を提案し変更した。結果,アンケートでHALの効果を感じた患者の割合が80%に増加し,リピーター率67%に改善がみられた。また,動画撮影からHALの使用により立ち上がりや歩行に改善した例が多数確認された。変更後にHAL効果の改善がみられた理由として,提案した方法は立位姿勢が不安定な場合や歩行時に膝折れがある場合でも,HALのアシストにより安全に安心して荷重位で練習が行えることが挙げられる。また,付属のパソコン上で動作時の筋活動がリアルタイムに確認できるため,目的動作で不足している筋活動を患者・理学療法士にフィードバックを与えながら練習が行えることも一因と考える。以上から,本研究で提案したHALの使用方法は有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 リハビリ現場におけるHALの使用方法は不明な点が多いため,本研究はHALをリハビリに応用する上で参考となり得る。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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