理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

テーマ演題 ポスター
地域に根付いた介護予防運動教室の展開と効果検証について
滝本 幸治宮本 謙三宅間 豊井上 佳和宮本 祥子竹林 秀晃岡部 孝生松村 千賀子
著者情報
キーワード: 介護予防, 運動教室, 高齢者
会議録・要旨集 フリー

p. Ed0826

詳細
抄録
【はじめに】 介護保険は2006年の改正により総合的な予防重視型システムへの転換が図られ、地域包括支援センターの創設に伴い介護予防事業が行われることになった。そのような背景の下、我々は高知県香南市において介護予防事業に携わってきた。具体的には1)高齢者健診、2)介護予防運動教室、3)リーダー育成、4)自主運動グループ活動支援であり、自治体とともに社会福祉協議会や総合型地域スポーツクラブ(NPO)などと運営にあたってきた。そこで今回は、我々が行ってきた職能を有する理学療法士養成校の地域住民を主体とした活動の展開について、介入効果の検証とともにその在り方について検討したので報告する。【方法】 我々が参画してきた上記4事項について順に述べる。まず1点目の高齢者健診は、特定高齢者のスクリーニングとして位置付けられ、介護予防事業の対象者を選定するためものである。我々は、基本チェックリストにおける選択基準の妥当性が指摘を受けていること、基本健診に含まれる運動器機能測定項目が3項目(握力、歩行能力、開眼片脚立位時間)に限定されていることに注目し、より総合的に高齢者の身体機能を判定する目的で体力測定を実施した。測定項目は、筋力(握力、等尺性膝伸展筋力)、バランス能力(開眼片脚立位時間、functional reach test)、柔軟性(長座体前屈)、敏捷性(ten step test)、歩行能力(10m歩行時間、timed up & go test:TUG)である。これらの測定結果は自治体に提出し、介護予防事業対象者の選定に活用された。2点目に介護予防運動教室については、高齢者健診により選定された介護予防事業の該当者を対象に、週2回×3か月(約20回)にわたって主に運動器の機能向上を目的とした介入を行った。1教室当たりの平均参加人数は15名程度で、運動教室の開始時と終了時には効果判定のための体力測定を行った。運動プログラムは、休憩を含めて約90分で構成されており、ストレッチングや筋力トレーニング、バランストレーニングに加えレクリエーションや休憩時間を利用して健康に関する講話を行った。3点目にはリーダー育成として、3か月の運動教室が終了した後に地域住民による運動教室の自主グループ化を促す目的で行った。まず、運動教室のリーダー育成を目的とした募集に応じた参加者に対して、週1回×4週間にわたり計4回、合計8時間の講座を開講した。各講座にテーマ(身体の構造、転倒発生のメカニズムと予防法、身体運動の方法論とその効果、運動教室の運動内容と指導時のポイント)を設定し、講義と実技を行った。この講座を通してリーダーに求めた役割は、運動実施時の先導役の他に補助が必要な参加者に対する対応方法や、会場設営など教室運営の手伝いなどである。最後に4点目として、自主運動グループ活動支援として、介護予防運動教室終了時から1年後、2年後に自主運動グループを訪問し体力測定を行い、その結果を継時的な変化がわかるように個人ファイルを作成し返却した。また、必要に応じて運動メニューの見直しや個別相談に応じた。【説明と同意】 高齢者健診および介護予防事業においては、香南市役所高齢者介護課の許可を得た上で実施した。また、それ以外の介入においては同課とともに参加者個人に説明と同意を得た上で実施した。【結果】 高齢者健診の結果から選定された対象者に対する介護予防運動教室について、過去5年における効果(n=116)として、3か月間の運動教室開始時と終了時の体力測定値を比較した結果、運動機能は握力と長座体前屈を除く膝伸展筋力、片脚立位時間、10m歩行時間、TUGで有意な向上を認めた(paired t-test、いずれもp<0.01)。また、QOL評価として用いたPGCモラールスケール(生きがい尺度)においても、教室後に有意な向上を認めた(Mann-Whitney test、p<0.05)。リーダー育成による自主運動グループ化については、リーダー自身が運動教室参加者と同地域の住民であることによる導入効果に加え、運動指導はもとより外出機会が減少しがちな地域在住高齢者の社交場としても機能していることが実感できるものであった。また、自主運動グループ活動支援として実施してきた定期的な体力測定の結果について、多くの体力測定項値は維持されていた。【考察】 高齢者が住み慣れた町で末永く健康的な生活を送るためには、高齢者の生活圏域内で必要なサービスを提供・完結させることと、高齢者を中心とした地域住民の主体的な参加が重要である。我々の参画は、地域住民主体の継続的な活動を可能にする一つの方策として、一定の効果を期待できるものであると考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士養成校の職能を、地域リハビリテーション活動を通して地域住民主体の取り組みへと促し、健康長寿に寄与する一つの方策として意義あるものである。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top