理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 ポスター
Kinectを用いた運動及び認知機能評価の可能性
─Number Place Kinect-Dual-Task Tai Chi Test-の開発─
加山 博規岡本 和也永井 宏達森 周平梶原 由布西口 周山田 実青山 朋樹
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キーワード: Kinect, 太極拳, 高齢者
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p. Ed1474

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抄録
【はじめに、目的】 運動機能、認知機能を可視化することは評価、介入立案するうえで極めて重要である。しかしながら個々を評価する方法は確立されつつあるが、その両者を同時に評価できる評価方法は少ない。近年の研究では運動、認知機能を同時に評価するDual-Task(DT)能力測定が注目され、その評価あるいは強化が転倒防止に有効であるという報告も散見される。かたや転倒予防としての太極拳(Tai Chi)の有効性が数多く報告されている。その理由として、制止筋力やバランス能力などの運動能力と空間位置覚などの認知機能の改善が考えられる。そこで我々は、コントローラーを用いずに操作できる体感型のゲームシステムであるKinectを用いて太極拳の動きを疑似し、運動及び認知機能を測定するソフトフェア「Number Place Kinect -Dual-Task Tai Chi Test-」を開発した。本研究では、本ソフトフェアの運動及び認知機能の評価機器としての有用性を検討することを目的とした。【方法】 対象者は地域在住高齢者20名(73.0±6.2歳、男性6名、女性14名)とした。歩行に介助が必要な者、顕著な認知機能低下、重度な神経学的・整形外科的疾患の既往を有する者は除外した。Number Place Kinectとは、スクリーンに投影された自身のスティックピクチャーを、全身運動を用いて操作し、表示されたNumber Placeに解答するものである。今回は4×4マス内に無作為に指定した3か所の空白に1から4のいずれかを埋めることを認知課題とした。太極拳を模した動きとして挿入する数字を右手で把持し、左手で回答個所を指定し、左足にて数字の把持コントロールを行う設定とした。本研究では、3か所の空白を全て埋めるまでの所要時間を評価指標とした。比較した測定項目は、運動機能評価として快適歩行10m walk test(10WT)、DT10WT(計算)、Timed Up &Go test (TUG)、ファンクショナルリーチ(FR)、片脚立位(OLB)、5 Chair Stand(5CS)、認知・遂行機能評価としてRapid Dementia Screening Test (RDST)、Trail Making Test(TMT)-A、TMT-B、語想起(動物)を測定した。統計解析には、所要時間と運動及び認知・遂行機能との関連性を調べるためにSpearmanの順位相関係数を算出した。また高齢者と若年者の所要時間の差を調べるために対応のないt検定を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 参加者には口頭にて研究の目的及び方法に関する十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 Number Place Kinectの所要時間は60.6±43.2秒であった。今回評価した所要時間はDT10WT(ρ=0.53)、TUG(ρ=0.62)、5CS(ρ=0.58)、TMT-A(ρ=0.59)、TMT-B(ρ=0.61)と有意な正の相関(p<0.05)を、FR(ρ=-0.52)、OLB(ρ=-0.83)、RDST(ρ=-0.53)、語想起(動物)(ρ=-0.55)と有意な負の相関(p<0.05)を示した。一方で、快適歩行10WTとは有意な関係性は認められなかった。【考察】 Number Place Kinectの遂行時間は遂行機能(RDST、TMT-A、TMT-B、語想起)、バランス能力(FR、OLB)、筋力(5CS)、複合運動能力(TUG)に加えてDT能力(DT10WT)との相関がみられた。これはNumber Place Kinectの構成要素として、リーチ動作及びサイドステップ動作における不安定な姿勢の保持にはバランス能力や筋力が、解答動作の正確性・敏捷性及び空間認知能力には遂行機能やDT能力が含まれることが考えられる。これらの結果より、Number Place Kinectは認知、運動を加味したDT能力を複合的に評価できる機器として有用である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 Number Place Kinectにより、日常生活動作に多く含まれる遂行機能、バランス能力、筋力及びDT能力の複合能力を定量的に評価することを可能になった。Kinectは汎用性の高い機器であり、ゲーム性を有していることから、リハビリテーション現場において介入目的にも用いることができる可能性がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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