理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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車いすスポーツを利用した地域における健康増進プログラムの展開
─参加者の運動能力に及ぼす影響─
橘 香織金井 欣秀青柳 亜希齋藤 由香水上 昌文
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p. Ed1473

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抄録
【はじめに、目的】 入院や外来診療での医学的リハビリテーションを終了した在宅生活者がスポーツ活動に参加できる機会は限られている.本学では平成22年度より在宅生活を送る障害児・者が参加可能なスポーツ活動の場の創発を目的として,“IBARAKI Sports for Everyone!”プロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトは,「車いすまたは椅子に座ってできるスポーツ」を楽しむ場を通して,障害ある方へ安全でかつ効果的なスポーツプログラムを提供することを目指している。現在実施しているプログラムの一つに車いすバスケットボール初級教室(以下,教室)がある.車いすバスケットボールは脊髄損傷者や下肢切断者の参加が多い競技種目であるが,本教室の参加者には脳性麻痺者の参加が多い。本報告の目的は,車いすバスケ教室の活動を紹介するとともに,参加している脳性麻痺児・者を対象に行った機能評価より,教室への参加が脳性麻痺者の運動能力に及ぼす影響について検討することである。【方法】 平成23年度の車いすバスケ教室は4月から10月の間に計20回開催した.1回のプログラムは90分で,内容はウォーミングアップ,体操,車いす操作練習,シュート練習,ゲーム形式練習から構成された.参加者は運動の前後に血圧と脈拍を測定した.スポーツ指導は車いすバスケットボール指導経験ならびに競技経験を有する理学療法士と学生ボランティアが行った.参加者は10名で,うち6名が脳性麻痺,他の神経疾患が2名,健常者が2名であった.身体機能評価の対象者は痙直型脳性麻痺者6名(11歳-22歳,男性3名,女性3名)で, GMFCSによる分類でレベルIが1名,レベルIIIが4名,レベルIVが1名であった.なお、いずれの参加者も主治医からスポーツ活動参加の許可を得ていた.機能評価は車いすバスケ教室の1回目,10回目,20回目に当たる日に実施した.身体機能評価として上肢の関節可動域(以下ROM)ならびにModified Ashworth scale(以下MAS)による筋緊張の評価と握力計による握力測定を施行した.また,パフォーマンス評価として短距離走時間(20m),5分間走距離,8の字走距離(1分間),パスの距離,を測定した.ROMとMASはクラスの指導に関与していない理学療法士が評価した.統計解析は,身体機能評価についてはWilcoxon符号付き順位和検定を,パフォーマンス評価については一要因反復測定分散分析をそれぞれ用いて検討した(有意水準は5%).また,全プログラムの終了時に練習内容・運動量・開催時期等の参加者の満足度について自記式アンケート調査を実施した.各項目についての満足度を5段階で評価したうえで感想を自由記載していただいた.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には書面をもって研究内容ならびにデータの公表を説明し,同意を得た.なお,本研究は茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得た.【結果】 運動の前後で血圧の有意な変動はみられなかったが,運動後に脈拍が増加する傾向を示した者が3名いた.運動中に痙攣発作や体調不良をきたした者はいなかった.ROM,MAS,握力については3回の測定を通して有意な変動はみられなかった.パフォーマンス評価項目のうち,短距離走(p=0.046)と8の字走距離(p=0.011)の成績で有意な向上が見られた.アンケート結果からは,一回のプログラムの練習内容や運動量の満足度は概ね高かったが,開催時期については,現在のように期間を区切っての開催ではなく一年を通して開催してほしい,という意見が多かった.【考察】 身体機能が悪化した者が見られず,むしろいくつかのパフォーマンス項目で有意な改善がみられたことから,スポーツ用車いすを使用して車いすバスケットボールを行うことは,対象者の運動能力を向上させる効果があったと考えられる.特に,短距離走や8の字走といった車いす操作項目のパフォーマンスで改善がみられたことから,日常用車いすに比べ重量が軽く,回転性能も良いスポーツ用車いすは,上肢に障害のある脳性麻痺者でも比較的容易に操作できたものと思われる.また通年での開催を希望する意見が多く聞かれたことから,健康増進のために身体を動かす機会を増やしたいというニーズがうかがわれた.【理学療法学研究としての意義】 スポーツ活動参加が心身機能に及ぼす効果とリスクを明らかにすることで、本学で開発するスポーツプログラムを安全かつ効果的なものにすることができる。さらに,これらの知見をもとに,医学的リハビリテーションを終了した在宅生活者の健康増進活動に寄与しうる新しいスポーツプログラムの開発につなげていきたい.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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