抄録
【はじめに、目的】 医療機関の退院に際して、理学療法士が関わっている大半のケースで在宅自主トレーニング(以下Home ex)のメニューが指導されている。しかし、退院後、確実に継続するかは本人次第であり、自己管理能力が低い利用者はHome exを実施していない傾向が見られる。Home exを確実に継続させるためには、退院前にHome exの自己管理能力を把握し、その能力に応じた継続のための対応策を講じる必要があるが、Home exの自己管理能力を評価する指標はこれまで報告されていない。そこで、我々は、本庄が提唱した慢性病者のセルフケア能力を査定する質問紙、Self-care Agency Questionnaire(以下SCAQ)が、Home exの自己管理能力把握に活用可能と推測し、Home exの自己管理能力とSCAQの関連性について検討することを、本研究の目的とした。【方法】 対象は、当院訪問リハビリテーションを利用しているSCAQに回答し得るコミュニケーション可能な者で、抜粋27項目全てに回答したHome exを実施している24名(男性9名、女性15名、年齢73.0±12.3歳、介入経過日数234.3±186.3日)とした。Home exの自己管理能力は、1)他者管理、2)チェック表使用で時折促しが必要、3)チェック表使用にて自己管理、4)自己管理の4段階の順序尺度と定義し、担当セラピストが実施状況を評価して分類した。SCAQは、本研究の対象者に不適切な2項目を除外した27項目について、留置調査法にて回答を得た。1)~4)群間のSCAQの比較にはKruskal Wallis検定を用いた。また、Home exの自己管理能力とSCAQの関連性についてはSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計解析にはIBM SPSS Statistics version19を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 この研究はヘルシンキ宣言に基づいて、対象者には、本研究の目的と内容を十分説明し、同意を得て行った。【結果】 Home exの自己管理能力を担当セラピストが分類した結果、他者管理群10名、チェック表使用で時折促しが必要群3名、チェック表使用にて自己管理群3名、自己管理群8名であった。それぞれのSCAQの中央値(四分位範囲)は、他者管理群118(111.75~128)、チェック表使用で時折促しが必要群118(114~119)、チェック表使用にて自己管理群128(128~133)、自己管理群131(128.25~133.75)であり、Kruskal-Wallis検定において4群間に有意差が認められた(p<0.01)。また、Home exの自己管理能力とSCAQの関連性は、相関係数rs=0.70(p<0.01)で、有意な強い相関関係にあった。【考察】 SCAQとHome exの自己管理能力には強い相関が認められ、SCAQがHome exの自己管理能力を評価する指標として有用であることが示唆された。セルフケアの概念には諸説あるが、その多くに共通して述べられている内容は、「自己の健康問題に主体的に対処していく積極的役割」である。SCAQはこのような点に基づき、しかも、日本人を対象として日本の文化的な影響も考慮し、開発されたセルフケア能力の評価指標である。そのため、Home exの自己管理能力との関連性が示されたものと考える。SCAQ を用いてHome exの自己管理能力を退院前に把握することができれば、チェック表使用や他者の関わりなど、Home exを継続させるための手段の選択が可能となる。これにより、Home exの継続した実施が期待でき、在宅における機能維持向上が可能となることが予測できる。今後の課題は、実際にSCAQにより評価を行い、レベルに応じた対応策を図ることで退院後もHome exが継続されるか検証することである。また、Home exの他者管理群には、SCAQの点数にばらつきが見られており、認知機能や障害受容との関連性についての検討が必要である。加えて、自己管理能力が後天的な能力であることから、自己管理能力そのものを高めるための支援方法についても考えていく必要があろう。【理学療法学研究としての意義】 本研究にてSCAQとHome exの自己管理能力の関連性が見出せることは、退院前に患者のHome exの自己管理能力の把握に有用である。これにより、Home ex継続のための手段を講ずることが可能となる。