理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
頚肩腕症候群の一症状である「肩こり」に対する超音波照射の効果
─軟部組織硬度に与える影響に着目して─
川島 康洋河端 新隈元 庸夫
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p. Fa0176

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抄録
【はじめに,目的】 高桑らは肩こりの発症に僧帽筋の循環障害が関与する可能性を報告し,臨床においても僧帽筋に圧痛や筋硬結の存在を認めるケースを多く経験する。また,森下らは健常者を対象に僧帽筋上部線維への超音波照射を行い,軟部組織硬度(soft tissue hardness : STH)が低下したと述べている。しかし超音波照射が実際の肩こり症例に対するSTHや圧痛に与える影響についての報告はない。そこで本研究の目的は,肩こりを有するものに対し温熱療法として超音波照射を行いSTHや圧痛などの肩こりの症状に与える影響を無作為化比較対照試験にて検討し,その効果をより明らかにすることである。【方法】 対象は肩こりを有する20名とした。事前に頸部機能指数(neck disability index : NDI)を評価し,無作為に超音波施行群10名(US群),プラセボ群10名(P群)の2群に振り分けた。各々,十分な馴化時間をおいた後,超音波施行部位は僧帽筋として,US群では周波数3MHz,出力1.0W/cm2の連続照射にて6分間の連続照射を行った。P群では,超音波を無出力とした以外はUS群と全く同様の実施条件として行った。使用機器は,伊藤超短波社製超音波治療器US750を用い,振動子はLタイプを使用して,ERA6cm2,BNR2.4とした。肩こりの程度(痛みと重だるさ)は,施行前後にVASにて評価した。また,施行前後のSTHと圧痛は伊藤超短波社製OE-220を用いて評価した。さらに同筋の表面皮膚温はリーゼ製皮膚温計TH03FHを用い測定した。統計学的処理はWilcoxon符号順位和検定とMann-Whitney U検定を用い有意水準を5%未満として検討した。【倫理的配慮,説明と同意】 研究に先立ち当院倫理委員会にて承認を得た。全ての対象者には本研究の主旨や目的を十分に説明し同意を得た。【結果】 両群間に開始前のNDI,肩こりの程度,STH,圧痛に有意な差を認めなかった。肩こりの程度に関しては疼痛,重だるさともにUS群において施行前後で有意な改善を認めた。STHにおいてはUS群において施行前後で有意な低下を認めた。皮膚温に関してはUS群で施行前と比較して施行直後に有意な上昇を認めた。圧痛に関しては両群とも施行前後で有意な差を認めなかった。【考察】 組織加温が生体反応に与える影響として,2℃の上昇で疼痛抑制と筋緊張抑制,3~4℃の上昇でコラーゲン線維の伸張性が増加するとされている。Draperらの下腿三頭筋に対する深部組織の温度変化の検討から,本研究デザインである3MHz,出力1.0W/cm2,6分間の連続照射では照射部位に違いはあるものの組織温度は約4℃の上昇が予測された。本研究において深部温度の測定は行っていないが,表面温度では照射直後に約3℃の上昇を認めたことから超音波による温熱効果の影響から組織の粘弾性が増し,結果的にSTHが低下したものと考えられる。STHが低下したことから筋スパズム,筋硬結が改善し,循環障害の改善,疼痛物質の還流促進とあわせて肩こりの症状緩和に繋がったと考えられる。しかし,圧痛に関しては照射群においても改善を認めなかった。この理由としては,肩こりの症状として安静時痛や重だるさ,軟部組織硬度が改善したことで筋スパズムや筋硬結が原因と考えられる二次性疼痛は改善したと推察されるが,今回の圧刺激による圧痛は一次性疼痛であり,超音波照射において十分な影響を及ぼすには至らなかったものと考える。P群においても肩こりの軽減がみられたケースもあり,超音波機器のヘッドによるマッサージ効果や心理的影響も肩こりの減少に影響を与えると考えられた。今後は,深部温度の検討や長期的な効果,より効果的な照射方法など更なる検討も必要と考える。以上の研究結果から,肩こりに対する温熱効果を目的とした超音波照射は軟部組織硬度の低下と症状の軽減に有用であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究から頚肩腕症候群の一症状である肩こりに対する超音波照射は軟部組織硬度の低下と疼痛の改善に有効であることが明らかとなり,今後の臨床応用の一指標となるものと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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