理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
交流微弱電流刺激が足関節骨折術後に与える影響
─第2報─
坂口 顕鵜崎 智史斎藤 淳久須美 雄矢村田 美代子堤 恵利坂本 有香綿貫 純一新谷 和也森本 鉄也稲森 康彰日高 正巳川口 浩太郎
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p. Fa0180

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抄録

【はじめに、目的】 交流微弱電流刺激(MCR)は,近年,急性外傷等の疼痛軽減,治癒促進を目的に,アイシングとともに,主にスポーツ現場で用いられている電気刺激治療である.一方,理学療法士が病院等の理学療法場面においては,使用されることも少なく,その効果を検討した研究も散見する程度である.我々は,足関節骨折による観血的骨接合術後固定期のMCRが,固定除去時の腫脹軽減や拘縮進行抑制に対する影響について,第19回日本物理療法学会学術大会で報告した.今回は,術後の固定方法を,ギプス固定よりも腫脹が強く生じるシーネ固定に焦点を当て,MCRの理学療法場面における可能性について検討したので報告する.【方法】 足関節周囲の骨折後,観血的骨接合術を施行した患者8名を対象とし,コントロール群4名,MCR群4名に分けた.固定はシーネ固定とし,コントロール群は,通常の理学療法を行い.MCR群は通常の理学療法に加えて,手術翌日より,1日12時間のMCRを夜間に行った.MCRには,交流微弱電流刺激装置(伊藤超短波社製AT-mini)を用い,刺激設定は,250μA,2.5sec,0.2Hzとし,固定期間中は毎日行った.なお固定期間は3週~4週であった.  効果判定は,固定除去時の足部周径の健側と患側の差,ならびに関節可動域とした.関節可動域測定は自動運動による足関節背屈を,矢状面よりデジタルビデオカメラを用いて撮影し,パーソナルコンピューター(以下PC)に取り込み,PC画面上で,画像解析ソフト(NIH ImageJ ver.14.4)を用いて測定した.統計解析には統計解析ソフト(PASW ver.18.0)を用い,二群間の差をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した.なお,危険率5%をもって有意差を判定した.【倫理的配慮、説明と同意】 研究を開始するにあたっては,兵庫医療大学倫理委員会の承認を得た上,対象となる患者には本研究の主旨,リスクならびに自由意志による参加であることを説明し,同意を得て行った.【結果】 疼痛については全症例,VASで3以下と,自制内であり両群間に差はなかった. 全ての症例で,固定直後に足部周径が増大し,足関節背屈可動域は減少していた.足部周囲の周径は,コントロール群が増大傾向を示した.また足関節背屈の関節可動域は,2群間において有意差を認め,MCR群が関節可動域制限の進行を抑制できた.なお,MCR使用による副作用は認めなかった.【考察】 本研究では,MCR群4症例,コントロール群4症例と,症例数が少なく,この結果のみを持ってMCRの効果を断定することはできない.しかしながら,本研究では,交流MCRが,足関節骨折による観血的骨接合術後の腫脹や関節可動域制限に対して,一定の効果があることを提示できたと考える.これは,病院等での理学療法場面での交流微弱電流刺激を使用するモデルになり得ると考える.ただし,その作用機序についての強力なエビデンスは不足しているといえる.その理由として,従来の微弱電流刺激は,損傷部位に生じた損傷電流を増幅することにより,組織の修復に必要な物質や細胞の集積を促すことで,創傷治癒を促進するといった目的で使用されてきた.その他にも組織でのアデノシン3リン酸(ATP)産生能の亢進,抗酸化作用等が報告されており,これらが創傷治癒や疼痛軽減に働くとされていた.しかしながら,従来の報告は直流電流を用いており,今回の交流電流での腫脹抑制,関節可動域進行抑制に対する作用機序は未解明である.これについては,交流電流により,正負の電流が,組織での物質移動を活性化させるといったことが考えられるが,想像の域を脱しない.今後,交流MCRの作用機序を解明するための基礎研究が不可欠であり,基礎研究の発展が待たれる.【理学療法学研究としての意義】 さらに多くの症例に対して検証する必要があるものの,本研究の結果は,急性期からの理学療法介入の一手段として,交流MCRの理学療法場面での利用モデルを提示できたと考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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