理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
ラットの骨折モデルを用いた人工炭酸泉浴の骨折治癒に与える影響
─TGF-β濃度の変動と組織形態学的変化による検討─
高須賀 純一矢田 智大森 潤一野中 紘士龍田 尚美秋山 純一
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キーワード: 動物モデル, 炭酸泉浴, 骨折
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p. Fb0798

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抄録

【はじめに、目的】 これまで人工炭酸泉浴に関する先行研究では、血行促進効果や組織代謝亢進作用による筋萎縮の予防効果や難治性創傷治癒の促進効果など種々の効能が報告され、その有用性が知られている。しかし、人工炭酸泉浴による骨折治癒に与える影響についての基礎的研究はこれまで見られない。本研究はラットを用いて脛骨骨折モデルを作成し、人工炭酸泉浴の骨折に対する治癒促進効果について検討した。【方法】 本実験は、生後9~15週齢の雄性ラットを36匹使用し、脛骨を対象骨として骨折モデルを作成し行った。ラットを無作為に3群に分け、それぞれ12匹ずつのコントロール群(無処置群)、さら湯浴群、人工炭酸泉浴群とした。ペントバルビタール麻酔下にて骨折モデルの作成を行った。まず、膝関節から脛骨にかけて露出し、あらかじめ膝蓋靭帯下方より注射針を脛骨髄腔内に挿入し、予備の穿孔を作成した。続いて、脛骨近位端から1/3の部位を回転式カッターを用いて切断し、脛骨骨折モデルを作成した。モデル作成後48時間目より、不感温度である湯温35℃のさら湯浴処置群と人工炭酸泉浴処置群それぞれ12匹ずつに対し、1日1回20分、週5回の頻度で8週間入浴治療処置を行った。入浴治療処置開始後、2週、5週、及び8週後にペントバルビタール麻酔下にて各群それぞれ4匹ずつ屠殺して血液と脛骨を採取した。血清中のTGF-β濃度をELISA法により測定した。また、脛骨標本は脱灰処理し、常法にて、HE染色、アザン染色を行い、組織形態学的検討にて評価を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は、吉備国際大学の動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 さら湯浴群、人工炭酸泉浴群それぞれに対し、2週、5週、8週の各週におけるTGF-β濃度の測定を行い、比較したところ、2週目のTGF-β濃度は人工炭酸泉浴群の方が高い値を示した。しかし、その後は時間経過とともに、人工炭酸泉浴群のTGF-β濃度は下降、さら湯浴群のTGF-β濃度は上昇し、8週目には、さら湯浴群の方が高い値を示した。HE染色、アザン染色を行った薄切標本の観察における各群の比較では、HE染色した標本の観察において、人工炭酸泉浴群の早期での線維芽細胞の消退が認められた。一方、アザン染色した標本の観察による比較でも、人工炭酸泉浴群において、コラーゲンの石灰化が対照群と比較して明らかに亢進されていることが観察された。【考察】 骨芽細胞の主要な機能は、骨基質の合成、分泌とその石灰化により骨を形成することである。一方、TGF-βにはコラーゲンなどの骨基質蛋白の産生促進効果があり、結果的に骨芽細胞分化が促進され、骨形成が高まると報告されている。人工炭酸泉浴群において、2週目(初期評価時)にTGF-β濃度が最大値を示し、各染色にて結合組織の石灰化の亢進が見られた。そのことから、人工炭酸泉浴には骨折後早期のTGF-β濃度の上昇作用と、骨芽細胞分化促進作用があり、優れた骨折治癒促進効果を有することが示唆される。【理学療法学研究としての意義】 炭酸泉浴(不感温度)を行うことにより、骨折治癒を促進することが確認できれば、骨折患者に対して施行し、リハビリテーションの効率を高めることができると考え、本研究を行った。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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