抄録
【はじめに、目的】 下肢血流は加齢と共に低下し、冷え・皮膚の乾燥等の症状が出現する。これらの症状は関節の変形や疼痛を伴う整形疾患とは異なり、下肢機能の低下として自覚されにくいが、重篤な歩行制限をきたす末梢循環障害の初期にみられる代表的な兆候である。したがって、このような循環障害の前駆症状に対し、直接的な改善効果が期待できる物理療法を活用して適切な改善策を講じることは、下肢機能低下予防にも有用であると考えられる。そこで今回は、加温・圧迫を併用した物理療法が下肢血流低下予防方策となりうるかどうかを検討するため、直接効果については下肢血流を、波及効果については活動量およびQuality of life(QOL)を指標とし無作為化前向き試験を行った。【方法】 本研究は2009年9月から2011年3月に行った。対象者の取り込み基準は、歩行習慣がなく、下肢冷感の自覚および下肢末端の皮膚の乾燥・角質の肥厚を有する65歳以上の地域在住高齢者とした。また、足部に潰瘍・創傷を認める者、下肢静脈に血栓形成を認める者、血栓形成リスクが高い者は除外した。下肢の冷えを呈する地域在住高齢者151名を対象にスクリーニング検査を行い、適格基準を満たした者をGroup1(週3回, 物理療法実施)・Group2(週3回, 歩行実施)・Group3(通常通りの生活)に無作為に割付け、4週間介入・追跡を行った。物理療法は、過熱水蒸気と間歇的空気圧迫を併用し1回15分間、歩行は中等度の強度で1回20分間実施した。血流量の測定はレーザードプラ血流画像化装置(PeriScan PIMII, Perimed社製)を用い人工気象室にて行い、活動量の測定は加速度センサー付き体動計(Lifecorder GS, Suzuken社製)を用いて行なった。QOLはSF-36. v2を用いて評価した。各指標の介入・追跡前後の比較はWilcoxon signed-rank test、群間の比較はKruskal-Wallis testを用いて行った。本研究は、科研費(若手研究B 21700578)、地域連携による健康長寿関連製品等開発促進事業および「からだにECOプロジェクト」事業大学等実施企画の助成を受けて実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究対象者には、本研究の主旨と方法、研究協力の自由意志を文書および口頭で説明し、書面による同意を得た。本研究は、名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認(承認番号804)を得て行った。【結果】 適格基準を満たした39例であり、介入・追跡を完了したものは、Group1 12名、Group2 13名、Group3 12名であった。Group1では、介入後に物理療法に対する血流応答の改善がみられた(足背; 60mV vs. 110mV, p=0.03. 足趾50mV vs. 150mV, p=0.02 )。QOLについては日常役割機能(身体) と活力の2項目が有意に上昇した(p<0.05)。Group2 ・Group3では血流応答・QOLの変化は見られなかった。また活動量ついてはすべての群で有意な変化は見られなかった。【考察】 物理療法を週3回4週間継続した際の直接効果として、足趾及び足背部の血流応答の改善が確認された。この結果は、下肢血流低下に伴う冷え・皮膚の乾燥等症状を有する高齢者においても、加温・圧迫併用刺激が適応領域の皮膚血流を促進し、下肢血流低下予防に寄与することを示すものである。一方、波及効果については下肢症状の改善に伴い、介入後は2つの下位尺度の点数が上昇したが、活動量の変化はみられなかった。研究開始時には、歩行群でも下肢血流の改善効果が得られると予想したが、結果において有意な変化はみられなかった。この理由として、本研究では運動習慣がない者を対象としたため、間接監視型の歩行は強度の遵守率が低かったこと、また介入期間が短かった可能性があると考える。本研究で設定した介入・追跡期間内においては、物理療法の効果を観察することができたが、今後は介入終了後の効果の持続性についても継続的に調査を行い、実用性を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、物理療法が下肢の冷感や皮膚の乾燥を呈する高齢者の下肢血流低下予防に寄与する可能性が示唆された。これは、一般に推奨されている「歩行」の習慣化が難しい対象者において、「歩行」に変わる下肢血流低下予防方策として物理療法が選択肢となりうることを示すものであり、末梢循環障害はじめ血流低下に起因する下肢機能低下予防に向けた理学療法プログラムに物理療法を取り入れる意義を提言するものである。