抄録
【はじめに、目的】 変形性関節症(OA)に対して理学療法士は、関節軟骨は再生不能という概念のもとに、関節軟骨への負荷を軽減することや関節軟骨以外の要因に対して働きかけ、日常生活活動の向上や疼痛の軽減を図ってきた。しかし、近年の関節軟骨における基礎的研究の発展に伴い、関節軟骨には活発な代謝活動が存在し、様々な因子によってその代謝活動が変化し得ることがあきらかとなってきている。関節軟骨代謝を司る重要な因子の一つに機械的刺激が挙げられ、その影響を解明することは理学療法士にとって重要である。2011年の本学術大会では、我々は低出力超音波パルス療法(Low-intensity pulsed ultrasound: LIPUS)が器官培養関節軟骨において軟骨破壊因子であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の発現を抑制する可能性を示唆した。本研究では、炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)を培養軟骨細胞へ添加することにより炎症軟骨モデルを作成し、LIPUSが炎症によって惹起された軟骨破壊因子に対する抑制効果を有するかどうかを検討した。【方法】 Wistar系ラット(12週令)膝関節から軟骨細胞を採取した。培養後(3~4継代)、2.5×105個/well濃度で6 well培養皿に播種し、80~90% confluentに達するまで培養した。血清内に含まれるIL-1βの影響を除去するため、実験20時間前に無血清培養液に交換し、さらに実験直前に無血清培養液もしくは無血清培養液にIL-1β (100pg/mlまたは1ng/ml濃度)を添加した培養液に交換し、LIPUSを0、7.5、30、120mW/cm2(SATA)強度で20分間照射した(各n=6)。照射終了から1時間後、各細胞からtotal RNAを採取し、Real-time PCR法を用いて、軟骨破壊因子であるMMP13(matrix metalloproteinase-13)のmRNA発現量を解析した。また、関節軟骨基質成分であるCol2(type 2 collagen)とACAN(aggrecan)のmRNA発現量も同様に解析した。算出された値は、LIPUS 0mW/cm2強度、IL-1β未添加条件の発現量を1とした場合の相対量として示した。【倫理的配慮、説明と同意】 所属大学における動物実験の実施に関する規定に順守して動物実験計画を作成し、動物実験委員会の審査を受け実施した。実験動物に与える苦痛を最小限にするように努めた。【結果】 IL-1β未添加条件においては、120mW/cm2強度のLIPUSで照射した場合のみ有意にMMP13の発現は抑制された(p<0.01)。Col2の発現量はLIPUS強度に関係なくわずかな促進が認められた(P<0.01)。ACANの発現は30mW/cm2強度のLIPUSで照射した場合のみ有意に抑制された(P<0.01)。100pg/ml濃度のIL-1βを添加し、MMP13の発現を惹起させた状態でLIPUSを照射すると、強度依存性にMMP13の有意な抑制が認められた(各p<0.01)。しかし、Col2においても7.5、30mW/cm2強度で、ACANでは7.5、120mW/cm2強度で有意な抑制が認められた(P<0.05)。1ng/ml濃度のIL-1βを添加し、MMP13の発現を強く惹起させた状態では、LIPUSを照射してもMMP13の発現に有意な抑制効果は認められなかった。また、Col2、ACANの発現量は120mW/cm2強度で特に抑制が認められた(P<0.05)。【考察】 本研究により、IL-1βによって惹起されたMMP13のmRNA発現を、LIPUSによって強度依存性に抑制することができる可能性があることが示唆された。しかし、1ng/ml 濃度のIL-1β添加条件ではその抑制効果が認められなかったため、LIPUSの効果はIL-1β濃度に左右される可能性がある。また、本研究条件ではLIPUS照射によりCol2やACANの発現が抑制される傾向が認められたため、より詳細な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 LIPUSは関節軟骨保護のための日常的な物理療法として有効である可能性を示唆した。