抄録
【はじめに、目的】 臨床実習において学生は多くの成功体験により、自己効力感は高くなると考えられている。自己効力感が高まることで、自ら進んで学習するといった行動変容が期待される。また、学生は自ら進んで行動し学ぶことを要求されるため、臨床実習は理学療法士となる上での重要な成長過程である。しかし、未経験な環境下では、不安やストレスを感じることも少なくない。本研究の目的は、自己効力感とそれを高める上で障害となると考える不安について、臨床実習による影響を検討することである。【方法】 対象は、筆者の勤務する4年制専門学校の理学療法学科に在籍する2年生(48名、男33、女15)、3年生(65名、男40、女25)、4年生(59名、男42、女17)とした。調査時期は、2および3年生は2010年度、4年生は2011年度を対象とし、実習開始前と終了後の原則として1週間以内に各1回、質問紙調査を実施した。臨床実習の内容は、2年生で1週間の見学実習、3年生で3週間の評価実習、4年生で9週間の総合臨床実習(1期目)であった。測定項目は、一般性セルフエフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale: GSES)、不安の測定尺度である日本語版State-Trait Anxiety Inventory(STAI-JYZ)の状態不安尺度(STAI Y-1)と特性不安尺度(STAI Y-2)とし、加えて実習修了後には臨床実習に対する意識調査(意識調査)を測定した。意識調査は5件法で行い、臨床実習での満足感・達成感・ストレス・実力の発揮・学校教育(実習で学校教育は役立ったか)の5項目とした。そして、実習前GSES、STAI Y-1とY-2では学年間の差(1元配置分散分析)および実習前後の差(対応のあるt検定)、意識調査では学年間の差(Kruskal-Wallis検定)で比較し、実習前後のGSESおよびGSES変化量(実習後GSES-実習前GSES))について意識調査とのSpearmanの順位相関係数を求めた。結果の分析はSPSS Statistics Version19を用い有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は群馬大学医学部疫学研究に関する倫理審査委員会で承認されたものである。また、説明と同意については対象者で研究参加の説明を受ける同意が得られた場合に、研究の趣旨、協力の内容と方法を口頭および文書にて説明した。研究参加を決定した対象者には、質問紙表紙への学籍番号の記入、回収箱への投函をもって同意を得たものとした。その後、筆者以外の第三者により連結匿名化を行い個人が特定できないように配慮した。【結果】 回答に欠損がなく、かつ実習前後での比較が可能なものを検討の対象とした。2年生で38名(回収率79.2%、男27、女11)、3年生で31名(47.7%、男20、女11)、4年生で33名(55.9%、男19、女14)であった。実習前後のGSESは2年生で5.3±3.4、5.7±4.2、3年生で5.0±4.5、4.8±4.7、4年生で4.1±4.2、4.3±4.6であった。STAI Y-1は53.2±9.4、42.6±10.0、58.3±8.1、48.4±11.5、58.2±9.6、46.8±11.0であり、全学年で実習後には有意に減少した。STAI Y-2は50.3±8.0、49.7±7.8、54.2±12.0、53.8±10.6、55.5±9.8、53.8±10.6であった。STAI Y-1では学年間での有意差を認めたが、学年間の有意な組み合わせはなかった。また、意識調査では2年生に比較して3および4年生で満足感、実力の発揮、学校教育で有意に低値を示し、さらに3年生でストレスに有意な高値を示した。しかし、達成感では有意差を認めなかった。さらに、GSESと意識調査との関連性では、学校教育とは有意な相関は認められなかった。実習前GSESでは3年生の達成感(r=0.39)、ストレス(r=-0.46)と、実力の発揮とは2年生(r=0.41)および3年生(r=0.38)で有意な相関が認められた。実習後GSESでは4年生の満足感(r=0.55)と、達成感とは3年生(r=0.37)および4年生(r=0.44)で、実力の発揮とは2年生(r=0.55)および3年生(r=0.43)で有意な相関が認められた。GSES変化量では、ストレスとは4年生(r=-0.37)で、実力の発揮とは2年生(r=0.45)で有意な相関が認められた。【考察】 各学年での臨床実習では目標や期間が異なるが、STAI Y-1の変化より実習に対する不安やストレスまた終了後の安堵感は共通する。一方、実習によるGSESの変化は認めなかった。これは、実習では自己効力感に比べて不安やストレスをより認識したことによるものと考える。しかし、GSESは実習前、実習後、変化量ともに意識調査の満足感、達成感、ストレス、実力の発揮との間に有意な相関が認められるものもあり、臨床実習の影響を判断、予見する上での活用が期待されるものと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果により、理学療法学生の自己効力感および不安への臨床実習による影響を明らかにする。これにより、臨床実習内容の改善、学生個人の特性に配慮した効果的な臨床実習教育および学内教育に活用することが期待される。