抄録
【はじめに、目的】 理学療法教育での臨床実習において,指導者から学生に対して,積極性の欠如:「質問をしない」,「やる気が感じられない」,「自分から動けない」の指摘が多い.これらの指摘は,学生が臨床実習を遂行するにあたり「自分自身で学ぶ意欲をもち,主体的に変化に対応する能力」,すなわち自己教育力が低下していることが原因ではないかと推測する.本研究は,理学療法学科の学生を対象に,臨床実習I期(8週)終了後,臨床実習III期(6週)終了後の学生の自己教育力がどのように変化するのか検討し,また,自己教育力側面では,心理的な側面も含まれていることから,臨床実習に対して不安などを生じやすい学生において,自己教育力と自我状態での各尺度ごとの関係の検討も研究の目的とする.【方法】 対象は2010年度,本学校理学療法学科に在籍し,臨床実習を経験する34名(男性27名,女性7名,平均年齢は22.5±3.7歳)である. 調査期間は5カ月とし,質問紙調査には、自己教育力と東大式エゴグラムを用い,集団法により教室単位で30分間で実施.分析は自己教育力変化に関しては対応のあるt検定を用い,自己教育力得点とTEGIIの各尺度との関連分析にはスピアマン順位相関係数を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 調査目的や回答結果は成績や評価と無関係であること,分析は統計処理されるため個人の特定はされないこと等について,口頭で説明し調査協力を依頼し,同意の得られた学生のみに実施した.本研究の倫理面については本校での教職員会議での審査を経て学校長の承認を得た.【結果】 長期I期実習終了後のと長期III期実習終了後の自己教育力得点の平均値の変化では,P=0.013と有意差を認めた.次に長期I期実習終了後の自己教育力得点とTEGIIの各尺度では,成人(以下:A)r=0.375に対してやや高い正の相関,従順な子供(以下:AC)では、r=-0.343に対してやや高い負の相関は認めた.長期III期実習終了後の自己教育力得点とTEGIIの各尺度において,批判的な親(以下:CP)はr=0.525,養育的な親(以下:NP)は,r=0.662,Aはr=0.563,自由な子供(以下:FC)は,r=0.582と共に正の相関が認めた.【考察】 自己教育力変化について,臨床実習を契機に,学生全体が学内教育の知識をもとに,臨床現場に必要な応用力的な知識に変換させるために,学生自身が臨床実習を良い成績で完了する事や担当患者を診るために,宿舎に帰り,指導者からのアドバイスやいろんな文献を閲覧,理解するなどの主体的に学ぶ意志・態度・能力を身につけた結果と考える.自己教育力の側面別分析については,臨床実習で,より具体的に行動や技能の領域が高度となるために具体的目標が存在し,それを達成しようとする意識が高くなり,各実習終了後間の各側面の平均値変化では,臨床実習を実施,経験することで,自己の客観視や論理的評価や自己評価が実習後には冷静にできるようになり,論理的な学習方法が身に付いてきたと考える.自己教育力とTEGIIの各尺度ついて,長期I・III実習終了後両方に関連があったものはAであり,臨床実習はそれまで学内教育で学んだ知識・技術を実際に患者に応用したり,臨床での新しい人間関係を維持するという学生の客観性や判断力などが臨床実習を経験することで養われ,同時に学内教育の知識から臨床実習で応用力することに対して自分自身で主体的に学んだ結果と考える.長期I期実習終了後で自己教育力得点と関連があった尺度はACがあり,ACとは周囲に適応していく従順な自我であり,学生にとって長期期間の臨床実習とは初めての経験であり,年齢的成長による自我の発達と共に学習環境への適応や周囲の人々との対人関係による不安が生じており,自信や安定感を得られていないと考える.長期III期実習終了後で自己教育力得点と関連があった各尺度からCPに関係がある事に関しては,学生自身が主体的に勉強することが減少した結果と考える.NPでは,他人を労り,親身になって世話をするといった寛容的な態度や行動を示し,担当患者のために学生なりに進んで勉強した結果と考える.FCでは,好奇心,創造力と関連性があり,学生自身が積極的に実習を遂行し,同時に主体的に学ぶ態度が養われた結果と考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,理学療法学科の学生を対象に,臨床実習I期終了後,臨床実習III期終了後の学生の自己教育力がどのように変化するのか,自己教育力と自我状態(性格)との各尺度ごとの関係を調査し,長期I期実習終了後と長期III期実習終了後で自己教育力は有意に上昇している事が認められ,自己教育力とTEGIIの各尺度の関係は,自己教育力の4つの側面に対して自我が必要であることが示唆された.