抄録
【はじめに、目的】 近年,超高齢社会によるニーズの高まりや規制緩和により理学療法及び作業療法の養成校は急増,それに伴い臨床実習に訪れる学生,臨床経験の浅い理学療法士(以下PT),作業療法士(以下OT)も急増した.当グループでもPT,OT全195名中,臨床経験3年未満のスタッフが55名と約3割を占め,臨床経験が浅いスタッフが臨床実習に関わることも増えてきており,実習生に対するバイザー間での要求水準に差がみられる場面もある.そこで本研究は臨床実習生,臨床5年未満のPT,OT,臨床5~10年未満のPT,OT,臨床10年以上のPT,OTでそれぞれの考える臨床実習の問題点の比較を目的とした.【方法】 当院で過去に臨床実習を行った実習生23名,当院の臨床5年未満のPT,OT17名,臨床5~10年未満のPT,OT15名,臨床10年以上のPT,OT15名の4群に対しアンケートを実施した.アンケートの内容は理学・作業療法の実施で考えると実習生の問題点はどこにあるかとし,渕上らが用いた13の選択肢より上位3位を順位付けしてもらった.各群の結果の解析には主成分分析を用い,主成分は固有値が1以上となる成分まで求めた. 統計処理にはR ver. 2.8.1.を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者は本研究の説明に対し同意を得た者とした.また,実習生へは協力がなくとも実習の不利益とはならないことを補足した.【結果】 主成分分析の結果は実習生で第1主成分(21.3%)は面接(0.51),問診(0.51),障害の把握(0.44),第2主成分(16.5%)は治療の実施(-0.47),観察(0.43),治療計画(-0.4),第3主成分(13.6%)は問題点の把握(0.48),観察(-0.46),第4主成分(12.2%)はニードの把握(0.49),検査測定(-0.43),第5主成分(10.8%)は情報収集(0.7)であった.臨床5年未満で第1主成分(26.1%)は目標設定(0.52),問題点の把握(0.49),第2主成分(18%)は障害の把握(0.55),ニードの把握(-0.43),治療計画(-0.43),第3主成分(13.5%)は観察(-0.67),第4主成分(12.5%)は治療効果判定(-0.56),検査測定(0.41)であった.臨床5~10年未満で第1主成分(22.2%)は問題点の抽出(-0.51),ニードの把握(0.44),問診(0.44),第2主成分(18%)は治療効果判定(0.48),治療の実施(0.45),第3主成分(15%)は障害の把握(-0.45),検査測定(-0.42),観察(0.4),第4主成分(12%)は面接(0.62),予後予測(-0.53),第5主成分(10%)は目標設定(0.65),観察(-0.53),第6主成分(9%)は治療計画(0.71),検査測定(0.41)であった.臨床10年以上で第1主成分(20.8%)は問診(0.54),面接(0.51),治療の実施(0.49),第2主成分(16.6%)は観察(0.43),問題点の抽出(-0.43),第3主成分(14.2%)はニードの把握(-0.46),観察(0.44),第4主成分(12.7%)は予後予測(0.53),第5主成分(10.4%)は治療計画(-0.65)であった.【考察】 結果から実習生は面接や問診,観察からの状態把握など患者さんに触れる前段階を問題点としている.5年未満,5~10年未満のセラピストは実習生が問題点としていた点よりも高いレベルの問題点の抽出や目標設定,障害把握に問題点を感じており,特に5~10年未満のセラピストでは問診,観察から検査測定,目標設定,治療の計画,実施,効果判定まで一連の流れを問題点としており,過大要求ではないかともとれる.しかし,10年以上のセラピストではテクニカルな要求は少なく最低限の治療ができる程度であり,問題視している点は問診,面接,観察などの状態把握で実習生が抱える問題点と共通するものであった.各々の考える問題点に齟齬が生じている状態は,ときに予測しない報酬が得られる場合もあるが問題点の共有がなければ実習生の行動や思考の変容は望めず,適切な好子も出現しない.当院では経験年数10年未満のPT,OTで要求水準が高く,バイザー主導の臨床実習となり得る結果となった.実習生の能力によってはバイザー主導が奏功することもあるだろうが,より良い臨床実習を提供するには是正しなければならない結果でもある.そこで当院では臨床実習コーディネーターを設置し,臨床実習の監視や実習生のストレス耐性度,努力―報酬不均衡モデル調査の結果をバイザーに提供すること,また,臨床実習指導法の提案などを開始した.その効果に関しては継続して検証していきたい.【理学療法学研究としての意義】 臨床実習は資質,知識,技術を向上させる教育の場である.しかし,決まりきった方法論を使い続けるのではなく,社会の変化やリハビリテーション業界の変化,自らの組織体の変化も考慮し,教育方法を常に刷新すべきである.本研究はそれを推進するものである.