抄録
【目的】 ヒューマン・サービスの現場では提供者に過重負担を強いられ,多忙や慌しさが日常的なためにクライエントや職場集団内の人間関係を構築する上で妨げとなる。一般にヒューマン・サービスのクライエントは受け身の態度を示すことが多いが,提供者はむしろ逆に協力的で快活なクライエントを望むように相互に期待するものが相反する。提供者―クライエント間の関係では相互作用が働き,互いの誤解は不信を生むために職場はストレスの温床になっていると考えられる。提供者の個々の感情が意識的ないし無意識的に操作される結果,情緒的な疲弊感に陥りやすく,そのことが他者への注意や関心の向け方に悪影響を与えることが推測される。今回,ヒューマン・サービス提供者の情緒的疲弊感の構造を分析し,それらが対人意識にどのように影響しているか検討した。【方法】 対象は質問紙調査の趣旨を了承した医療機関に勤務する看護師と理学・作業療法士86名(男性33名,女性53名,最多年齢階級:40歳代)であった。質問紙調査(留め置き法)時期は2011年6~9月であり,調査票は基本属性,Maslach burnout inventory(MBI)(稲岡訳1988,22項目),対人態度測定尺度(内的他者意識,外的他者意識,空想的意識,感情的温かさ,感情的冷淡さ及び感情的被影響性の6尺度,12項目)などで構成されていた。MBIは情緒的疲弊,離人化及び自己成就の下位尺度からなり,バーンアウトに陥った状態とは情緒的疲弊及び離人化の各尺度で高得点を,自己成就尺度で低得点を示すものと解され,前述の条件に該当する者をバーンアウト群(26名)とした。一方,情緒的疲弊及び離人化の各尺度で低得点を,自己成就尺度で高得点を示すもの者を健全群(28名)とした。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,前述の2つの測定尺度について下位尺度別の得点を算出し,下位尺度間でPearson相関係数を算出した。【説明と同意】 対象者は本研究の趣旨を了承した者であり,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記されていた。 【結果と考察】 回答者全員ではMBIの下位尺度である情緒的疲弊感,離人化及び自己成就の3尺度と対人態度の6尺度との相関関係では,情緒的疲弊感と感情的冷淡さ(r=0.21,p<0.05),離人化と感情的冷淡さ(r=0.35,p<0.01)及び自己成就と外的他者意識(r=-0.30,p<0.01)を認めた。MBIの妥当性は3つの下位尺度の得点とバーンアウトに関係すると仮定される多様な行動との相関関係を検証することで可能と考えられる。本研究の回答者からは感情的冷淡さと情緒的疲弊,離人化と正の相関を認め,他者共感性の情動的要素にも影響を及ぼすことが確認された。一方,内的他者意識得点はバーンアウト群7.2±1.1点,健全群8.0±1.0点と前者で有意な低値を示した(p=0.01)。また,外的他者意識と空想的意識尺度では両群間で差を認めなかった。さらに,感情的温かさと感情的被影響性尺度では両群間で差を認めなかったが,感情的冷淡さ尺度ではバーンアウト群5.3±1.3点,健全群4.6±0.5点と前者で有意な高値を示した(p=0.02)。 これらのことから,バーンアウト群では他者の気持ちや感情などを敏感に捉え理解しようとする内的他者意識が低いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,ヒューマン・サービス提供者がバーンアウトに陥ると他者への共感性を損なうことが明らかとなった。そのため,提供者の上司は部下のクライエントに対する応対や接遇態度に共感性を欠くことが確認されたら,職場管理の視点からその原因を個人的特性に求めるよりも,職場環境要因に重点をおいて検討することが重要であること明らかにしたことが意義深いと考えられる。