抄録
【はじめに、目的】 近年、養成校の増加に伴う実習生の増加、診療報酬や介護報酬改定に伴う業務の煩雑化などにより、指導者の負担が増加の一途を辿っている。また、国家試験合格者が急増し、経験年数の少ないセラピストが臨床現場に増えてきている。それに伴い指導者の若年化と指導力の低下が起きている。また、対象者の権利意識の向上による実習拒否、資格を持たない学生による診療行為の違法性などの問題が指摘されている。臨床実習を取り巻く様々な環境は急激に変化し、既存の患者担当制の実習形態の継続が困難となってきている。そのような中、新たな実習形態としてクリニカルクラークシップ(以下、クリクラ)が注目を集めてきている。クリクラは知識偏重ではなく、現場でより多くの症例を通した経験を積むことを目的としている。医師の臨床実習において導入されていた実習形態であり、一定の効果を挙げている。しかし、臨床実習を取り巻く環境が違う為、医師教育で行われている方法をそのまま理学療法の臨床実習に導入することは難しい。本校では開校以来、クリクラを導入してきたが、現場で経験するという本実習の目的を果たしているとはいいがたい。そこで今回、現場において経験を積むために指導者が学生に求めている要素を調査することを目的とした。【方法】 対象者として、23年度の夏に実施したクリクラの実習地の中から、17病院6施設の指導者(経験年数3±2.07)37名。方法として、実習終了後に指導者へアンケート調査を実施した。内容としては、(1)体験させるために最も重視して学生に求める要素を1つ選択。(2)総合的な体験度を見るために1から10までの数値を提示し、1に近いほど見学のみで10に近いほど体験のみとして各段階の該当箇所にマークしてもらった。1から5までのマークを見学群、6から10までを体験群に分けたものを体験度とした。また、経験年数は指導者の若年化を考慮し、新人教育プログラムが終了する3年目を基準とし、3年目以上と以下にわけた。統計処理は(1)体験度、(2)病院か老人保健施設(以下、老健)の施設区分と経験年数及び学生に求める要素とのそれぞれの関連についてχ2検定を用いて検討した。体験度と経験年数及び施設区分とのそれぞれの差はMann-WhitneyのU検定を用いて検討した。全ての統計処理は、有意水準5%未満を有意差としてSPSS.ver16を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本校承認のもと実施し、書面にて目的・方法・情報の取り扱いなどを説明し文書にて同意を得た。【結果】 見学群と体験群の偏りに有意差は認められなかった。老健と各要素の有意差は認められなかった。病院では、報告・連絡・相談の徹底の要素が有意に高かった。経験年数と各要素との関連について有意差は認められなかった。体験度と施設区分との有意差は認められなかったが、3年目以上の経験年数では体験度が有意に高かった。【考察】 体験度が体験優位にならなかったことから、まだクリクラの目的が十分果たせていないことが推測される。病院において報告・連絡・相談の徹底が高かった事に関しては、体験する上で対象者の安全確保のためのリスク管理は最優先されるべき要素であると共に、病院では急変や急性期の医学的な管理を必要とする患者が多いことから、医学的な処置の頻度が高い。また、学生は急変時や前兆を察知して対処することが困難であるため、指導者は対象者の状態を十分把握した上で、リスクに曝される前に対処したい。これらの要因から、リスクを最小限に抑えるためにも、普段からの報告・連絡・相談が重要となり、特に実施前の具体的な相談が求められているのではないかと考える。また、経験年数と各要素に関連がなかったことは、体験するに際して必要な幅広いリスク管理は経験年数に関係なく求めているためと推測する。最後に施設区分と体験度に有意差は認められず、どの施設区分でも偏りなく体験できることがわかる。しかし経験年数と体験度の有意差はあった。3年目以下では体験が少なく、3年目以上では体験度が挙がっている。このことは、体験させるために求めることは経験年数に関係ないが、学生の不足している要素を指導して体験させることができているためであると考える。【理学療法学研究としての意義】 クリクラは今後主流になってくる実習形態である。その目的は現場で多くの体験を積むことで経験値を挙げることである。そして経験値を挙げるためにはリスク管理は必須となる。そのために指導者が求めている要素の一部を明らかにできたことは、今後の時代背景に即した理学療法士育成のクリクラを開発する上での一助となる。