抄録
【目的】 学生にとって臨床実習成績は、卒業単位の取得のみでなく理学療法士としての適性や資質が問われる重要な課題である。実習における学生評価は、指導者にとって専門職への適性の把握や節度ある行動の確認、さらには理学療法を施行する上での評価・統合解釈・治療計画の立案・治療結果の報告など多岐にわたる。これらの評価項目と実習成積との関連について分析した。【方法】 対象は、当校3期生・4期生・5期生の計203名である。長期実習I(10週間)と長期実習II(10週間)における各施設での実習成積を活用した。当校における実習評価項目は、福岡県理学療法士会教育管理系専門部会にて開発された評価表であり、県下の養成校理学療法学科にて使用されている。評価内容は、「I:専門職への適性およびふさわしい態度(10項目)、II-1:理学療法を施行するための情報収集・検査測定(5項目)、II-2:理学療法の治療計画の立案(3項目)、II-3、理学療法の実施(5項目)、III:症例報告書の作成・提出・発表(3項目)」の計26項目である。評価尺度は、「A(良好):僅かな助言指導を与えればできた、B(普通):時々助言指導を与えればできた、C(やや劣る):十分な助言指導を与えればできた、D(劣る):十分な助言指導を与えても出来なかった」の4段階である。26項目の4段階評価と100点満点での総合点を記載する。長期実習I期・II期を終了し得た計200名について、I期・II期間での総合点の関連をピアソンの績率相関係数にて求めた。I期・II期の延べ403名における26の評価項目(A=4点、B=3点、C=2点、D=1点)と総合点との関連をスピアマンの順位相関係数にて求めた。さらに、403名における総合点を目的変数とし、26の評価項目を説明変数とする重回帰分析を行い、変数減少法(回帰係数を有意性を5%未満とする)にて変数の絞込みを行い、9項目までに厳選した。【説明と同意】 理学療法学科倫理委員会にて、本研究の趣旨を説明し同意を求めた上で実施した。【結果】 200名におけるI期・II期の総合点の相関は、rp=0.1469(p=0.0379)と低い値を示した。延べ403名での各26項目と総合点の相関で、弱い相関を示したのは「I-1:身だしなみ・態度・挨拶、I-2:施設・病院の規則を遵守、I-3:施設内の整理整頓と掃除、I-4:施設職員への学生的対応、I-5:対象者への接遇・礼儀、I-8:対象者の個人情報の保護」の6項目であり、rs=0.276~0.432の低い値であった。他の20項目は、「I-6・I-7・I-9・I-10:専門職への適性およびふさわしい態度(上記以外の4項目)、II-1:理学療法を施行するための情報収集・検査測定(5項目)、II-2:理学療法の治療計画の立案(3項目)、II-3:理学療法の実施(5項目)、III:症例報告書の作成・提出・発表(3項目)」で、rs=0.593~0.700と高い値を示した。26項目を説明変数に用いた重回帰分析の寄与率はR2=0.7439と高いが、回帰係数の有意性を5%未満にて厳選した結果、9項目となった。9項目における重回帰分析の寄与率は、R2=0.7305と非常に高い値が得られた。「I-6:物事への向上心・探究心、I-7:適切な報告・相談・連絡、II-1-3:検査・計測を正確に実施、II-1-4:面接・検査・測定結果の記録、II-1-5:得られた情報の統合・解釈、II-2-1:治療計画の設定、II-2-3:治療計画の変更、III-2:期限内の提出、III-3:簡潔明瞭な症例発表」の9項目が、長期実習の総合点に大きく関与している。【考察】 200名におけるI期・2期での実習成績の関連が低いことより、実習成績に指導者との対人関係が寄与していることが窺える。学業面での成績優劣が、実習での総合点に反映するとは一概に言い切れず、多面的な評価が関与していることが窺える。総合点との関連性からみれば、実習に臨む学生の姿勢(適性や挨拶・態度)は当然なことではあるが、指導者への報告・相談・連絡をスムーズに実行することの重要性が示唆されている。また、検査計測や統合解釈など基礎的知識や症例報告などの臨床応用的発想への幅広い知識の重要性が窺える。【理学療法研究としての意義】 9項目の評価内容を吟味し、臨床への学生指導に大いに役立てている。さらには、評価項目から予測される総合点と各施設の総合点との相違を分析し、各施設の実習難易度ランクを設定し、実習学生の性格など考慮した実習配置など検討していきたい。