抄録
【はじめに】 平成22年4月に厚生労働省からリハビリ関連職種の喀痰吸引が認められた。しかしながら、当院のほとんどのリハスタッフは吸引操作が出来ないままで、全て看護師に依頼していた。そこでリハ室内に吸引教育チームを発足させ、新人を含めた全リハスタッフが、喀痰吸引ができるようになることを目標に、平成23年の4月から9月までの6ヵ月間教育活動を行った。その結果、一定の成果を上げることが出来たのでここに報告する。【方法】 対象は、当院のリハスタッフ26名(PT18名 OT5名 ST3名)。吸引教育チームの構成人数は6名。現状把握として、吸引患者の多い病棟の看護師とリハスタッフにアンケート調査を実施した。看護師には、リハスタッフに任せたい吸引内容や看護師に任せて欲しい患者などを聞き、今回の吸引目標や吸引対象者を決める際の参考にした。リハスタッフには、平成22年度の吸引状況を調査した。吸引教育者は今回のチームメンバー6名とした。教育者育成プログラムは、1看護師の講義を受講する(手順書配布) 2メンバー同士で実技練習をする(2回) 3病棟患者で実習をする(3回以上) 4病棟中堅看護師から技術チェックを受ける とした。一般リハスタッフの教育プログラムは、1看護師の講義を受講する(手順書配布) 2一般リハスタッフを6班に編成する(班長は教育者)3班毎でスタッフ同士実技練習をする(2回) 4病棟患者で班長とマンツーマンの実習をする(3回以上) 5 別の班の班長から技術チェックを受ける(二重チェック) とした。実技練習では、水にとろみをつけた擬似痰を作成し、それを吸引した。吸引対象患者はカンファレンス時に看護師より情報収集した。教育者と一般リハスタッフの技術チェックに用いるチェックリストは今回新たに作成し、看護部の承認を得たものを使用した。また教育効果の確認として、新人を除くリハスタッフには吸引に対する恐怖度を、吸引経験者には吸引技術満足度をそれぞれ0~10点の11段階で表してもらった。統計処理はWilcoxon符号付順位和検定を使用し、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 今回吸引を実施した患者には活動の主旨を説明し、同意を得られた方のみを対象とした。【結果】 現状把握アンケート調査では、看護師33名から回答を得た。看護師から要望の高い吸引は、1位 口腔内吸引61% 2位 鼻腔内吸引45% 3位 閉鎖式吸引27% 3位 開放式吸引 27%であった。よって今回の活動目標は、口腔内・鼻腔内吸引を習得することとした。看護師に任せて欲しい患者としては、1位 SpO2が低い人(88%)2位 酸素量が多い人(64%)3位 HRが上昇する人(48%)4位 暴れる人(36%)であった。平成22年度のリハスタッフの吸引状況は、10名が吸引経験者で、そのうち6名は年間で3回以下であった。また教育を受けた背景も全員異なっており、吸引手技も統一されていなかった。教育者育成プログラムを実施した結果は、メンバー全員看護師の試験に合格し、教育者に育成できた。リハスタッフ教育プログラムの結果は、9月中旬までに全員試験に合格することが出来た。教育効果としては、吸引恐怖度は、活動前が中央値5.0に対して活動後が4.0と有意に低下した(P=0.0063)。昨年度吸引経験のあるリハスタッフ10名の吸引技術満足度は、活動前が4.0に対して活動後が7.5と有意差は認められなかったが上昇傾向にあった(P=0.052)。【考察】 今回6名の吸引教育者を育成し、1班の班員3~4人の少人数制で教育したことにより、平等で効率よく教育することが出来たと思われる。最も苦慮したことは、客観性を持って吸引技術を習得したと判断することであった。そのために看護部の承認を得たチェックリストを作成し、チェック項目全て出来ることを合格基準とした。さらに教育者の試験は中堅看護師が、一般リハスタッフの試験は別の班の教育者が実施することで客観性を持たせることに努めた。その結果、全リハスタッフが同一基準をクリアした吸引技術を得ることが出来たと言える。波及効果としても、吸引に対する恐怖度は有意に低下し、ほとんどのリハスタッフが吸引に自信を持つことができたと思われる。吸引経験者の満足度も上昇傾向にあり、教育プログラムが有益であったと言える。全リハスタッフが喀痰の吸引ができるようになれば、患者サービスの向上と看護業務の負担軽減に繋がると思われるので、今後もさらなる技術の向上に努めていかなければならない。【理学療法学研究としての意義】 適切な教育プログラムを活用すれば、職種や経験年数に関係なく同じ教育期間で新しい技術を習得することが可能ということを証明することができた。