抄録
【はじめに、目的】 臨床実習は様々なストレスを受ける機会が多い。指導者は学生の心身の健康状態を把握し、過度なストレスにならないよう管理することが求められる。しかし、これまでストレス管理は、指導者の経験と実習生とのコミュニケーションに依存されることが多く、経験の浅い指導者や指導者・学生間の人間関係が構築されていない場合、適切になされていないことが多くあったものと思われる。そこで客観的な数値を示すことができる検査法を利用して実習生指導を行うことが、実習生のストレス管理に有用であるかを検証することを本研究の目的とした。【方法】 方法は、被験者のおかれた条件により変化する一時的な気分・感情の状態を測定できるという特徴を有するProfile of Mood Stats検査(以下:POMS)を、実習開始日、毎週末、及び実習終了1週後に行い、感覚尺度(緊張・不安:以下TA、抑うつ・落ち込み:以下D、怒り・敵意:以下AH、活気:以下V、疲労:以下F、混乱:以下C)毎に標準化得点に換算した。POMSは、感覚尺度のうちTA、D、AH、F、Cはnegativeな尺度で、高値を示すほどストレスが高く、Vはpositiveな尺度で低値を示すほどストレスが高いと捉えられる。検査は65問から成る質問紙法で、当日を含む過去1週間を対象期間とするため、検査結果は当日を含む過去1週間のストレスの程度を反映する。対象は2008年4月から2009年11月までに当院での臨床実習修了者13名(23.9±3.3歳)を非介入群、2009年12月から2011年6月までの臨床実習修了者15名(23.3±4.6歳)を介入群とした。非介入群は、理学療法学生11名、作業療法学生2名、男性8名、女性5名で、介入群は理学療法学生12名、作業療法学生3名、男性9名、女性6名であった。非介入群は、検査結果データを記録するのみとし、指導方法は指導者に委ねた。介入群には、非介入群での実習生の傾向を指導者に説明した。更に、各感覚尺度において換算値の大幅な変動が確認された時点で、先輩職員から指導者に対し指導方法の助言を行った。当院では実習期間によらず3週目に初期発表、最終週に最終発表を行っている。被験者の実習期間は6週~9週とばらつきがあったため、5週目以降は最終週を基準とし、最終前週および最終週とした。使用データは実習前、第1週、第2週、初期発表週、第4週、最終前週、最終週および実習後とし、二元配置分散分析およびMann-WhitneyのU検定を行った。p<0.05を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 参加する学生に対し、本研究の目的と方法、個人情報の守秘義務に関して十分な説明を行い、参加・不参加の選択権を与えた。また途中で不利益なく参加の取りやめが可能であることを伝えた上で同意を得た。なお結果を本研究及びストレス管理にのみ利用し実習の成績に影響することはないこと伝えた。【結果】 二元配置分散分析の結果、群間における有意差は認められなかった。Mann-WhitneyのU検定の結果、Fの最終前週に有意差が認められた(標準化得点平均値:非介入群52.9±9.7、介入群45.9±5.4、p=0.028)。非介入群の標準化得点の平均値では、TAはD、F、Cにおいて第4週を挟み、実習前半および後半にピークのある2峰性のグラフとなった。介入群の標準化得点の平均値ではTAおよびFにおいて、最終前週での増加は認められず2峰性を示さなかった。D、Cでは2峰性を示したものの後半のピーク値は非介入群と比べ低値であった。AHは両群とも全ての期間において低値を示した。Vは両群とも最終前週に最低値を示した。【考察】 非介入群のTA、D、F、C より、実習という不慣れな環境の中、初回評価や発表の準備によりストレスが増加し、初期発表終了による安堵感から一時的にストレスが軽減されるが、最終発表の準備に向け再びストレスが増加することが予測される。介入群において、TA、Fでの最終前週での増加が認めらなかったことおよびD、Cでの最終前週での増加が軽度であった結果から、POMSの結果を踏まえた指導を行うことで、実習後半にかかるストレスが軽減された事が示唆された。Vに関しては、介入がストレス軽減には繋がらなかった。【理学療法学研究としての意義】 実習期間中の実習生は常に強いストレスを受けている。その中でも初期及び最終発表の準備の負担が強いことが窺えた。POMS検査の利用した指導を行うことで、実習後半にかかる実習生のストレスを軽減できる可能性が示唆された。また、非介入群の期間では3名の実習途中終了者が発生したが、介入群の期間は途中終了者が発生しなかったことからも、POMS検査を利用したストレスの有用性が窺えた。Vに関しては介入群においても変化が無く、更なる介入方法の検討が必要である。また、実習生にとっての最適ストレス量の検討も今後の課題としたい。