抄録
【はじめに、目的】 臨床の理学療法業務において,その治療成績を顧みることは,PT一個人においても,職場全体としても質の高い理学療法を継続して提供する為に重要である。そこで当院では,理学療法に関する診療記録をデータベース化して利用し,より質の高い理学療法サービスの提供,新人教育,臨床研究への足がかりへとつなげている。【方法】 2008年1月より共通の理学療法内容調査シートを作成し,通院終了後にデータベース化を行うことをリハビリテーション科全体の業務の一環とした。また2003年12月の開院から2007年12月の間に理学療法を行った患者2251例に対しても,診療記録を整理してデータベース化を行った。 開始当初の調査シートの主な項目は,A.基本情報(担当PT,ID,氏名,性別,年齢,スポーツ傷害かどうか),B.疾患情報(左右,部位,疾患名,受傷日,理学療法開始日,理学療法終了日,理学療法の中途終了の有無,医師の理学療法処方の指示内容,手術の有無と内容等),C.スポーツ傷害患者における情報(種目,ポジション等,スポーツレベル,理学療法開始時点でのスポーツ参加状況,スポーツ復帰に要した期間,日常の練習頻度/週,練習時間/日,スポーツ開始年齢)とした。2011年5月には,調査シートの改変を行い、さらにA.理学療法の中途終了の有無の状況についても,より詳細(⒈ 完治にて終了,2. 症状改善のなか中途終了,3. 症状残存のなか中途終了,4. 症状残存のなか運動指導にて経過観察,5. 運動指導のみの処方,6. 社会的環境により終了,7. 医学的問題により終了,8. 不明)に調査,整理を行うこととした。【倫理的配慮、説明と同意】 診療データに関しては,病院長による許可を得て,疫学研究に関する倫理的指針に則って扱った。【結果】 各調査項目をまとめ,PTスタッフ全員でその結果を共有することで,下記の点において臨床業務の改善や研究活動,PTスタッフの教育におけるとりくみにつなげた。1)疾患別件数の結果から,各PTが臨床において頻繁に治療を行う疾患に対する意識付けの機会となり,より必要とされる知識・技術の向上を促した。2)各疾患における平均治療期間の結果より,外来理学療法においても目標設定を行う時期の参考とした。 3)完治終了(症状が改善しかつ同意の上で終了となった)件数の割合の結果より,より難渋しやすい疾患に対する認識を深め,勉強会などでリハビリテーション科全体での取り組みに生かした。 4)2)、3)項目の結果を,経験年数によって比較し,経験の浅いPTスタッフにて治療成績に改善が必要と考えられた場合、院内での教育内容に反映させた。 5) 医師より数回の運動指導のみで対応指示があった疾患の件数を調査し,必要に応じて運動指導用のパンフレットを作成し,治療に導入した。6)各疾患件数の管理によって,個別の疾患に対する臨床研究を促す土台となった。 7)理学療法終了の状況をより詳細に調査することで,完治による同意の上での理学療法終了の割合を算出し,各PTおよび科全体としての治療成績を確認することで,さらなる治療成績改善へのモチベーション向上を促した。【考察】 理学療法内容のデータベース化を行うことによって,各個人が自身の治療成績を顧みる機会を設けられたのと同時に,リハビリテーション科全体として改善すべき点や向上すべき知識・技術の内容を明らかにし,さらに新人教育へのヒントを得ることができた。今後は,各個人の治療成績を疾患別,年度別に算出し明示することで,各々がとりくむべき課題を明確にし,さらに質の高い理学療法の提供を当科スタッフ全体で目指していきたい。【理学療法学研究としての意義】 PT養成校が増加し多くの新人PTが医療機関へ所属する中,職場全体としてもPTスタッフの若年化が進んでいる。その結果,職場で経験豊富なセラピストから十分な指導・教育を受けられる機会は減少するものと思われる。そのような中で,日々の臨床での治療成績をデータベース化して,その治療内容を自ら省みる事で,より質の高い自己学習や職場全体としての業務改善に努めていくことに意義を感じている。