理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

専門領域 口述
回復期リハビリテーション病棟で働く女性理学療法士を対象とした意識調査
─女性理学療法士の離職率改善に向けた取り組み─
丹羽 麻奈美唐澤 幹男清水 藍森田 英隆岩井 浩一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ge0076

詳細
抄録
【はじめに、目的】 近年,理学療法士(以下,PT)の数が急増し,女性PTの占める割合と,365日体制の回復期リハビリテーション病棟が増加している。しかし,全体として加齢に伴い女性PTの割合が減少している現状がある。回復期リハビリテーション病棟に勤務するこれから家庭を持つ女性PT,及び現在家庭・育児と仕事を両立している女性PTへの意識調査は今まで行われていない。そこで今回,茨城県内の回復期リハビリテーション病棟に勤務する女性PTに対して質問調査を実施し,女性PTの勤務状況や労働環境の実態,PTとして働く意識を調査した。本研究により,女性PTの意識を明らかにすることで離職率改善に向けた提案を行うことを目的とした。【方法】 調査対象は,茨城県内の回復期リハビリテーション病棟を有する病院(計14病院)とし,郵送法により実施した。14病院中13病院,計87名から回答が得られ,調査票の回収率は84%であった。調査内容は,各病院の概要,PTとしてのやりがい,意欲,将来の展望,現在の職場に対する満足度とした。統計処理はSPSSVer.17用いてクロス集計を行い,有意差はカイ2乗検定にて分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 調査協力病院および対象者個人に対し,研究の趣旨,方法を書面にて説明し,各自の自由意思による参加を保障した。また,病院や個人が特定されることがないよう調査は無記名とし, データは統計的に処理することを伝えた。アンケートの回収をもって本研究への同意を得る事とした。【結果】 各病院の概要は,13病院中,日祝出勤を行っているのは8病院であった。また,回復期病棟に配属しているスタッフの人数は6~10名が36%で最も多かった。男女比は男性55%,女性45%で男性が女性をやや上回っていた。また,対象者個人に対する調査の結果,回答者の割合は未婚女性77%,既婚女性18%,育児と両立しているPT(以下、PTママ)5%と未婚女性の比率が最も高かった。経験年数は,1年目が22%を占め最も多く,経験年数が上がるに従って人数の減少がみられた。平均年齢は26.25歳(22~46歳)であった。仕事にやりがいがあるかとの質問に対して「とても感じる」と回答した者は全体の55.4%で,未婚者と比較すると,既婚者とPTママで回答が多い傾向があった。さらに高度な知識や技術を身につけたいかとの質問に「とても感じる」と回答した者は全体の68.5%であるが,未婚者と既婚者の割合と比べるとPTママでやや少ない傾向があった。有意差がみられたのは,結婚・出産・育児の経験がPTを続けるうえでプラスになるかという質問で,未婚者では半数以上が「少し感じる」と回答したのに対し,既婚者の66.8%とPTママの80.0%が「とても感じる」と回答した。また,子育て支援についても未婚者の半数以上が「あまり知らない」と回答したのに対し,既婚者の約半数は「少し知っている」と回答しており有意差がみられた。今の職場で仕事を続けたいかについては,「少し思う」および「あまり思わない」の回答が75.9%で,理由については,急な休みがとりにくい,他のスタッフへの配慮,勤務時間が長い,仕事量が多い,経済面の不安,家庭との両立は困難などの意見があげられた。【考察】 今回の調査で,回復期リハビリテーション病棟に所属する女性PTは若く未婚女性が多いため,今後結婚適齢期を迎える者が大多数であることがわかった。PTにやりがいを感じ技術や知識を身につけたいと考えている意欲のある女性が多い一方で,現在の職場は継続して働きにくい環境であると考えていることが明らかになった。その原因として子育て支援について周知されていないことも一因と考えられた。改善策としては,職場全体での意識改革,子育て支援や育児休暇についての勉強会,勤務体制の見直し,研修制度などの復帰支援,女性の交流の場の提供などが考えられる。結婚や出産後の女性の勤務体制については各病院で異なるが,日本理学療法士協会や都道府県士会などで統一した制度をつくることで,女性が安心して働ける職場環境になると考えられる。また,他の職種の女性支援から改善策を考え,社会全体に目を向けることも重要である。【理学療法学研究としての意義】 今までPTは男性が目立つ職種であったが,女性PTの増加と共に女性PTへの配慮がより重要視されるべきである。経験・知識・技術を持った女性PTの離職は大きな損失であり,質の高い理学療法の構築を妨げることになる。さらに離職率の増大や配慮不足はPTを目指す優秀な女性の減少にもつながる可能性が考えられる。以上の点から今回の実態調査は女性が働きやすく,離職率の少ない職場環境にするために価値があるといえる。また,このような状況は各都道府県でも同様と考えられ,本研究による結果は他の都道府県にとっても参考になるものでありその波及効果は大きいと考える。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top