抄録
【はじめに、目的】 当院リハビリテーション科では平成22年4月より科内での管理運営ツールとしてBSC(バランスト・スコア・カード:以下BSC)を導入し、平成23年10月までの18ヶ月間に、ある程度の成果を認めたので今後の課題を含めて報告する。【方法】 BSC導入前の12ヶ月間を含め平成21年4月から平成23年10月までの30ヶ月間におけるリハビリテーション科収益、FIM改善率、リハビリテーション総合実施計画書交付率、科内教育システムに着目し推移を比較・検討した。なお、リハビリテーション総合実施計画書交付率に関しては着手の時期が8ヶ月早く、比較は平成20年4月からの42ヶ月間とした。【倫理的配慮、説明と同意】 情報開示に関して医療法人弘恵会理事長横倉義武の許可を得た。【結果】 リハビリテーション科の総収益は療法士の増減にもかかわらず全体的に増加しており、特に作業療法部門に関しては大きく改善している。これは明確な目標のもとで無駄な時間を排除し、各々が「今、何をしなければいけないか。」ということを常に考え、業務を行うようになった成果のひとつである。FIM改善率においては自宅復帰率も同時に算出しており、自分たちの提供した医療が患者へどのように還元されたかを客観的に見る指標となった。リハビリテーション総合実施計画書の交付率においては交付促進チームを立ち上げ毎月20日と末日に集計を行い、スタッフへ提示し意欲を高めた。交付促進チームの立ち上げ以前は年間平均で50%台であった交付率が70%台へ向上し、さらに「交付率80%以上」という明確な目標を設定した。その結果、目標設定以降18ヶ月間で平成23年2月のみ79.2%であった以外は交付率80%以上を維持している。科内教育システムに関しては、症例検討会、伝達講習、新人教育プログラム研修、を定期的に開催しており、実習生の症例発表も含まれている。科内全体ミーティングは毎月1回、16時30分から17時30分の1時間に意見交換や情報伝達、戦略マップの修正を行っている。この場で決定した事項は早ければ翌日から実行することで問題の早期解決を図っている。また、科内全体ミーティングの大きな目的は「見える化」であり、情報を出来る限り詳細に伝達することにあり、これにより様々な情報の共有とスタッフ間の温度差を縮小出来ると考えている。【考察】 BSCは本来、法人または病院全体で職員が一丸となって取り組むべきマネジメントツールであり、経営体質を改善する目的を持っている。管理運営を「学習と成長の視点」「内部プロセスの視点」「財務の視点」「患者の視点」から戦略マップに表現し、そこから客観的に問題点を捉えヴィジョンを明確にしたことにより、それを達成するためのベクトル(意識の方向性)が統一され、個人の意識や成長が病院経営に直結する事を各々が認識できた。導入前は漠然とした問題意識はあるものの「それが問題だよね。」「時間が無いから。」とそれ以上の行動が起こされることは少なく、具体的な対策を考え実施するということはなかった。また、ワークアウトを行うことで全員の意見をもれなく引き出すことを基本とし、決して一個人の強制的な施策とならないように注意した。さらに、その全ての意見に対して必ずフィードバックを行うことで、組織の中での存在価値を認められたという満足に繋がり、各々が問題点を自分のこととして真剣に考える事が出来るようになった。しかし、病院全体でBSCを導入しているわけではなく、他部署との温度差を感じることも少なくない。中でも病棟との連携においては大きな課題が山積している。今後は患者を中心とした医療を提供できるように、問題点を同じ視点で共有し意識を改革することでの連携強化を目指していきたい。【理学療法学研究としての意義】 我々の多くは臨床におけるセラピストでありながら病院や施設という組織の一員である。多くの制度的な制約や多忙のなかで、自己実現を達成するためには目標を明確にする必要があり決して怠惰に毎日を過ごしてはいけない。BSCというひとつのツールを使用することで問題や効果・成果を「見える化」し、それが目的達成のための道標となると確信している。さらに、経営だけではなく理学療法士としての責任や人格形成の面からも今回の導入は有益であったと感じている。