理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
当院理学療法部門における医療事故分析
─KYTの取り組みから見えてきたこと─
清本 悟片岡 孝史藤田 直也遠部 知之峯野 利江山本 昌和
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p. Ge0078

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抄録
【はじめに、目的】 急性期病院においては、我々理学療法士(以下,PT)の早期介入の必要性が叫ばれる中で、集中治療中の患者の対応において多くの危険を伴う作業が避けがたい現状にある。当院では2007年度より危険予知活動(以下,KY活動)を取り入れ、院内はもとよりリハビリテーション課(以下,リハ課)内においても取り組みを行ってきた。今回、当院理学療法部門における、医療事故報告を分析し、経験年数による医療事故発生状況及びKY活動の効果について検討したので報告する。【方法】 2010年4月から2011年3月までの12ヶ月間に提出された医療事故報告を後方視的に調査した。分析対象は、当院理学療法部門で生じたアクシデント事例33件であり、対象PTは、経験年数1年目から14年目の15名である。経験年数が少ない2年目までのスタッフ(以下,A群)と3年目以上のスタッフ(以下,B群)を2群に分けて医療事故件数を比較検討した。またA群とB群で医療事故のレベルに差があるかについても比較検討した。経験年数と医療事故発生件数の関連性をスピアマンの順位相関係数を用いて検討し、A群B群の比較についてはそれぞれt検定(対応なし)及び、χ2乗検定を使用し有意水準は5%未満とした。また、KY活動の効果を見るためにスタッフ1 人当たりの医療事故件数についても、2008年度から2010年度までの事故件数をPT数で割り平均値を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 当院では入院時に医療事故研究に関して御本人、そのご家族に説明し、医療事故報告書を元に個人が特定されないことを条件として院内外へ公表することに同意を得ている。【結果】 2010年度の当院PTからの医療事故報告は33件であった。その内、1年目のスタッフが12件(36%)、2年目5件(15%)、3年目1件(3%)、4年目以上のスタッフが15件(45%)となっており、2年目までのスタッフが半数を占めていた。内容分類は、怪我など14件(42%)、転倒転落10件(30%)、ドレーン等の管理4件(12%)、指示3件(9%)、治療・処置2件(6%)であり、これらの多くは勘違いや思い込み、行動の省略行為や「大丈夫だろう」といった思考、いわゆる人間特性から発生している事故(ヒューマンエラー)であることが明らかとなった。経験年数と医療事故発生件数については、相関が認められず、A群B群間に統計学的有意差はなかったもののA群が多い傾向にあった。また、経験年数とアクシデントレベルとの関連についても有意差はなくどの年代からもレベルに関わらず報告がなされていた。スタッフ1人当たりの医療事故件数の平均は、2008年度2.5件、2009年度2.4件、2010年度2.2件とKY活動導入後減少傾向であった。【考察】 当院理学療法部門において、経験年数に偏りなく事故報告がなされたのはKY活動の定着により、スタッフ1人1人の医療事故に対する気付きや報告の意識が高まったためと思われる。また、事故件数を人数比で検討した結果KY活動導入後、1人当たりの事故件数が減少傾向であることもその効果と思われた。いくつかの先行研究では、経験年数の少ない時期に事故報告が多いという報告があるが、当院においては同様の結果は得られなかった。本来KY活動においては、産業社会において経験年数に関わらず、エラーは人間特性が引き起こすものとされ単に事故報告やインシデント数を減らす事を目的とするのではなく、日々の危険予知能力を上げること、すなわち報告やインシデントの感度を上げることが結果として重大事故を減少させるものと考えられている。当院においてもA群だけでなくB群からのヒューマンエラーによる事故報告があり、新人スタッフのみならずベテランスタッフへの事故対策も必要であることが見えてきた。【理学療法学研究としての意義】 経験年数の少ないスタッフにはドレーンチューブ類の取り扱いや様々な非定常作業の中に潜む危険についてのリスクマネジメントの教育を取り入れ、経験年数の比較的長いスタッフには、業務の効率化や知識技術レベルの向上などから省略行為や思い込みなど事故を引き起こす人間特性を学ぶ必要があると思われる。また、リスク管理に関する勉強会やKYT(危険予知トレーニング)でのリーダー役などを通じて医療事故に対する備えと報告の意識を高いレベルで保ち患者のみならず自分自身を守る意味でも継続的な取り組みが必要であると思われる。今後は、作業療法部門・言語療法部門などリハ課全体での分析も行い、病院全体へもKY活動の効果等をフィードバックし医療事故の防止とよりよいリスクマネジメントシステムの構築に役立てたい。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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