抄録
【目的】歩行能力の予後を入院後早期に正確に予測できれば,効果的かつ計画的なリハビリテーションを遂行する上で有益である.そこで,本研究の第一目的を入院時評価から脳卒中片麻痺患者の院内歩行自立可能性を予測する指標を得ることとし,第二目的を院内歩行自立までに要する日数の予測式を得ることとした.【方法】対象は,平成23年4月から平成24年4月の間に当院回復期リハビリテーション病棟に入院した537名の内,取り込み基準を満たした43名の脳卒中片麻痺患者である(平均年齢±標準偏差76.8±6.4歳).取り込み基準は,65歳以上の初回脳卒中片麻痺患者,入院時下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS)5以下,入院時Functional Independence Measure(FIM)移動・歩行が5点以下,データ収集が可能な程度の理解力が保たれていることとした.この43名を,院内歩行自立群(A群)と院内歩行非自立群(B群)の2群に分類した.FIM移動・歩行が6点以上を自立とした.収集データは,性別,年齢,麻痺側,病型(出血,梗塞),発症から入院までの日数,入院時Functional Balance Scale(FBS),入院時下肢BRS,入院時FIM移動・歩行,入院から院内歩行自立までの日数(A群のみ)とした.FBSの測定は,歩行練習時に下肢装具を使用している者は装着下で実施した.本研究の第一目的である院内歩行自立可能性を予測する指標を得るために,入院時FBS得点を用い,歩行能力を弁別するカットオフ値を検討した.検討には,Receiver Operating Characteristic curve(ROC曲線)を用い,Youden指数(感度+特異度-1)が最大となる値を最適なカットオフ値とした.また,A群とB群に関して,性別,年齢,麻痺側,病型,発症から入院までの日数,入院時FBS,入院時下肢BRS,入院時FIM移動・歩行の群間比較を行なった.有意水準は5%未満とした.次いで,本研究の第二目的である院内歩行自立までに要する日数の予測式を得るために,A群を対象とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行なった.入院から院内歩行自立までの日数を従属変数とし,性別,年齢,麻痺側,病型,発症から入院までの日数,入院時FBS,入院時下肢BRS,入院時FIM移動・歩行を独立変数とした.有意水準は5%未満とした.多重共線性を確認するために,各変数の分散拡大要因の値が10以上の変数は除去することとした.【説明と同意】対象者全員に本研究の意義,目的を説明し,参加の了承を得た.また個人情報の保護には十分に配慮することを説明した.本研究は,当院の臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で実施された(承認番号53).【結果】A群は15名,B群は28名であった.群間比較の結果,年齢(A群72.1±4.9,B群79.3±5.7,平均値±標準偏差),入院時FBS(A群40.1±8.7,B群8.0±10.5,平均値±標準偏差),入院時下肢BRS(A群5,B群2.5,中央値),入院時FIM移動・歩行(A群4,B群1,中央値)に有意差を認めた(p<0.05).性別,麻痺側,病型,発症から入院までの日数に有意差は認められなかった.本研究の第一目的の結果として,院内歩行が自立できるか否かを弁別するカットオフ値を入院時FBS22点とした時に,感度100%,特異度89.3%となり,Youden指数が最大となった.第二目的の結果として,入院時下肢BRSと病型が有意な独立変数として抽出され,【入院から歩行自立までの日数=-36.8×入院時下肢BRS+33.4×病型(出血0,梗塞1)+201.8】という予測式が得られた(自由度調整済み決定係数0.8,p<0.05).【考察】入院時評価から院内歩行自立可能性を判別し,更に院内歩行自立に要する日数の予測値を得るには,以下の2段階の手順に従えば良いものと考える.第一に,入院時FBSを測定し,22点以上ならば入院中に院内歩行が自立する可能性が高いと判断できる.次に入院時FBSが22点以上の対象者の入院時下肢BRSと病型データを,得られた予測式に代入することにより,入院から歩行自立までの日数の予測値を得ることができる.本研究で得られた院内歩行自立判別性及び日数予測式の精度は,臨床での使用に耐えうる水準にあると考える. 【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた結果を臨床で使用することにより,入院後早期に患者の歩行能力の見通しを立てることができると考える.このことは,患者本人はもちろんのこと,理学療法士‐特に臨床経験の少ない若手理学療法士‐にとっても有益であると考える.