抄録
【はじめに、目的】観察による歩行分析は信頼性に乏しいことは確認されているが,頻繁に用いられる評価である.この問題を改善する一手段として,既存の歩容評価表を利用する方法がある.歩容評価表は多数考案されているが,特にTinetti gait assessment(TGA)や,脳卒中患者を対象としたWisconsin gait scale(WGS),中枢神経疾患患者を対象としたRevermead visual gait assessment(RVGA)は,それぞれで信頼性が検討されている.これらの歩容評価表について相互関係性を見い出し,汎用性の高い評価表を考案したいと考える.その前段階として,これら3つの歩容評価表について,検者間信頼性を比較し,相互互換性について検討することを目的とした.【方法】検査者は当院に勤務する理学療法士18名(経験年数の中央値5年;1年〜26年)とした.被検者は当院へ入院中の脳卒中患者4名(男性2名,平均年齢65歳,発症からの期間平均4.5ヶ月)とした.これらの被検者は,装具・補助具の使用を問わず病棟生活において歩行が監視または自立している者とした.被検者に前後3mの助走路がある16m直線路を歩行してもらい,中間の10m区間の歩行状態を前方・後方・側方(麻痺側)より,デジタルビデオカメラ(カシオ社製EXILIM EX-ZR10)で撮影した.これらの被検者の歩行を撮影したビデオ映像を検査者に観察させ,TGA9項目(2段階評価または3段階評価),WGS14項目(3段階評価または4段階評価,5段階評価),RVGA20項目(4段階評価または7段階評価)によって評価させた.評価の時間制限は設けず,映像の再生回数も自由としたが,各被検者ならびに被検者評価の順番は循環法(局所管理)による割り付けで行った.統計的解析は,検者間信頼性として歩容評価表下位項目に対し,それぞれカッパ係数及びKendallのW係数を用いた.次に歩容評価表の相互互換性を検討する為に,被検者ごとにTGA,WGS,RVGAを,それぞれ従属変数または独立変数として単回帰分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者へ研究の意義,目的,方法などの説明を行い,書面上で研究協力の同意を得た.なお,本研究は筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を受け実施した.【結果】κ係数及びW係数はTGA,WGS,RVGAの順に高い値を示した.TGAはκ係数=0.75~0.85,W係数=0.53~0.73.WGSはκ係数=0.61~0.71,W係数=0.48~0.63.RVGAはκ係数=0.38~0.52,W係数=0.39~0.63であった.全ての被検者でこの傾向はほぼ同一であった.次に単回帰分析の結果,被検者1名のみ各歩容評価表の回帰式は分散分析,回帰係数ともにp<0.05で有意であった.残り3名の被検者はWGSとRVGAまたはTGAとRVGAの回帰式のみ有意であった.しかし,いずれの回帰式も決定係数R²は0.27~0.41と小さく,予測精度は低かった.【考察】検者間信頼性について,TGA,WGS,RVGAの順に信頼性が高く,項目数と選択肢が増加するほど信頼性が低下することが示された.また回帰式の予測精度が低いことから,各歩容評価表の相互互換性は低いと考える.相互互換性は,評価内容の違いに加え,採点の重みづけや文章表現の違いから,各評価表とも低い結果となった.各評価表で定義される歩容に差があり,脳卒中患者の歩容評価として一定性がないことが伺える.今後脳卒中患者の歩容評価の妥当性について検討が必要と考える.【理学療法学研究としての意義】既存の歩容評価表の信頼性や内容の解析によって統合化を図り,より汎用性が高く,簡略化された評価表を作成できれば,理学療法学分野の研究のみならず臨床活用においても意義がある.