抄録
【目的】Perryは歩行速度に基づき<0.4m/sをhousehold(household)、0.4m/s~0.8m/sをlimited community(limited)、>0.8m/sをfull community(full)に分類した。Bohannonは加齢により快適歩行速度(CWS)に比べ、最大歩行速度(MWS)が低下することを示し、MWSはCWSの約1.4倍であることを示した。これに加え、CWSからMWSへ、速度変化に関する能力についての検討がされており、速度変化の指標は歩行速度のみの測定では得られない更なる有益な情報を得られる可能性があると示唆された。本研究の目的はCWSとMWSの関係を検討すること、および歩行能力をPerryの分類に基づき3群に分け、歩行能力と速度変化の関係を検討することとした。【方法】対象は34名の脳卒中片麻痺者であった(年齢66.2±11.0歳、発症からの期間57.5±36.3日)。取り込み基準は介助なくTimed Up and Go test(TUG)や10m歩行が可能なもので、除外基準はテスト遂行に支障をきたすような高次脳機能障害をもつもの、麻痺以外の影響で歩行能力に影響を及ぼすような骨関節疾患や内部障害の既往のあるものとした。測定項目はTUG、10m歩行の快適速度条件と最大速度条件、およびその他としてFunctional Balance Scale(FBS)、Functional Reach test(FR)、麻痺側下肢荷重率(荷重率)、下肢Brunnstrom stage(BS)、Falls Efficacy Scale(転倒ES)、Barthel Index(BI)であった。CWSからMWSへの速度、歩数、および歩行率の変化は以下の式を用いた{(MWSの変数-CWSの変数)÷CWSの変数×100}。CWSとMWSの関係、および歩行速度と歩数、歩行率の関係、さらに歩行速度変化率と歩数変化率、歩行率変化率の関係は回帰分析を用いて検討した。Perryの分類に基づく3群間の比較は一元配置分散分析およびKruskal Wallis検定を用い、その後の検定にはBonferroni法を用いた。各変数の関係はPearsonおよびSpearmanの相関を用いた。解析はSPSS18.0J for Windowsを用い、5%未満を有意水準とした。【説明と同意】対象者には研究参加の前に研究概要を口頭および文書で説明し、理解を得た後、研究参加の同意を得た。【結果】TUG快適速度条件とTUG最大速度条件は、回帰係数がそれぞれ0.72と1.33であり、調整済みR²は0.95であった。CWSとMWSは、回帰係数がそれぞれ0.71と1.37であり、調整済みR²は0.96であった。CWSおよびMWSとも、歩数と歩行率から良好な予測が可能であった(調整済みR²>0.895)。しかし、歩行速度変化率は歩数変化率と歩行率変化率から予測することはできなかった(p>0.05)。全対象者および各3群において快適速度条件と最大速度条件を比較すると、歩行速度、歩数、および歩行率に有意差を認めたが、household群のみ、歩数と歩行率に有意差を認めなかった。速度変化の指標について、各3群間には、歩数変化率のみhousehold群とlimited群、およびhousehold群とfull群の間に有意差を認めた。TUG変化率、歩行速度変化率、歩行率変化率は群間差を認めなかった。その他、household群とlimited群の間にはMWS、麻痺側FBS、非麻痺側FBS、FR、荷重率、転倒ESに有意差を認めた。household群において歩数変化率と相関を認めた項目は無く、limited群で歩数変化率と相関を認めた項目はCWS、10m快適歩行歩数、非麻痺側FBS、歩行速度変化率であった。また、BSを4,5,6の3群に分け、TUG、歩行速度、歩数、歩行率それぞれの変化率を比較しても有意差は認められなかった。【考察】先行研究のように、MWSはCWSの約1.4倍であり、その逆は約0.7倍であった。このことはTUGにも当てはまった。また、歩行速度は歩数と歩行率から良好に予測できたが、歩行速度変化率は歩数変化率と歩行率変化率から有意な予測ができなかった。脳卒中片麻痺者も快適速度から最大速度へ、速度を変化させる能力を有することが示されたが、household群のみ、速度変化による歩数、歩行率の変化が認められなかった。Perryらの分類を用いた速度変化の比較において、household群とlimited群の間の歩数変化率に有意差を認めた。この2群間の各変数の比較において有意差を認め、かつ歩数変化率と相関の認めた項目はCWSと非麻痺側FBSのみであった。以上より、CWSとMWSは密接な関係にあるが、速度変化と速度変化に寄与するものはかなり複雑であることが示唆された。また、今回の結果から、0.4m/s以上と未満のものにおいて、快適歩行から最大歩行へ歩数を変化させて対応する戦略の差は、非麻痺側の機能の差が関与している可能性が示唆された。しかし、杖や装具の使用を許可していること、左右の非対称性を考慮せず歩数として検討したことは本研究の限界である。【理学療法学研究としての意義】速度変化に関する因子を歩行能力別に検討することで、歩行速度とは別の視点から、歩行の制限となっている因子を探れる可能性が示唆された。