抄録
【目的】 呼吸困難の原因となる過度な呼吸数の増加や浅速呼吸には、肺胞換気量の増大を目的に呼吸パターンの是正が試みられることが多い。我々は呼吸中枢出力の指標である気道閉塞圧( P0.1)と呼吸数の関係について研究を行い、呼吸数を減ずる呼吸パターン是正が神経系の側面からも有効である可能性について報告した。本研究ではさらに研究方法の統制を行い、自然呼吸パターンから呼吸数を減少させた条件から増加させた条件まで多段階に呼吸数を調整した上で呼吸中枢出力の指標であるP0.1を観察し、呼吸パターン是正について新しい知見を得たので報告する。【方法】 健常成人16名を本研究の対象者とした。換気量の測定には呼気ガス分析器を、口腔内圧の測定には差圧トランスデューサーを用いた。それぞれの信号はADコンバーターを介しPCに記録し、呼吸数、一回換気量(VT)、酸素摂取量(V(dot)O2)、呼気終末炭酸ガス濃度(ETCO2)、吸気時間(VI)を算出した。また呼吸中枢出力の指標にはVT/VIと気道閉塞装置で得たP0.1を用いた。 まず被験者の自然な呼吸パターンで呼吸運動を行わせた(100%RR)。次にこの呼吸数を基準とし、この75%、125%、150%、200%の呼吸数で呼吸運動を行わせた(それぞれ75%RR、125%RR、150%RR、200%RR)。呼吸数の調整はソフトウェアメトロノームを利用して、音声による指示に呼気を合わせる方法で行った。呼吸数が増加すると過換気の傾向を示すため、そのような場合はVTを小さくするように口答指示を与えた。呼吸数調整の順序はランダムとした。1回の測定につき連続3分間測定を行い、測定開始後1分後から2分後に換気諸量の測定を行い、2分後から3分後まで至適の間隔で計5回、P0.1を測定し、その絶対値の平均値を算出した。 統計処理は反復測定による一元配置分散分析とFreidman検定を行い、その後の検定として多重比較検定を行った。有意水準はP<0.05とした。【説明と同意】 すべての対象者に研究の主旨を説明し、書面によるインフォームド・コンセントを得た。【結果】 呼吸数は9.9±3.0回、12.6±3.6回、16.1±4.8回、19.4±5.8回、24.8±6.7回(それぞれ75%RR、100%RR、125%RR、150%RR、200%RR)と調整され、それに伴いVTは減少した(F=17.8、P<0.001)。V(dot)O2には有意な変化が認められなかったが、ETCO2はVTを調整したにもかかわらず呼吸数の増大に伴い減少した(F=20.2、P<0.001)。一方、VT/VIは変化を認めなかったが、呼吸数の増大に伴いP0.1は増加した(F=24.5、P<0.001)。しかしながら100%RRに比べ呼吸数が多いとP0.1が大きくなるものの、安静時より呼吸数を減じてもP0.1は減少しなかった。 【考察】 前回の研究と同様、呼吸数が増加すると呼吸中枢出力の指標であるP0.1が増加したことから、呼吸数を減じる方法による呼吸困難感の改善は、肺胞換気量の増大による効果の他、呼吸中枢出力減少を介した経路も考えられる。しかしながら呼吸数を安静呼吸よりも減じてもP0.1は減少しなかったことから、至適呼吸数を超えて減じても呼吸困難感の改善には寄与しないことが予測される。【理学療法学研究としての意義】 呼吸器疾患に対する理学療法では、呼吸困難感を減少させる目的で呼吸数を減ずるように呼吸パターンを調整することが多いが、これは呼吸中枢出力の減少の観点からも利点があると考えられる。しかしながら至適呼吸数を超えて呼吸数を減じても呼吸中枢出力の指標が減少しないことから、呼吸パターンの是正を行う際にはそれらを考慮すべきである。