抄録
【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者や慢性心不全(CHF)患者などの呼吸循環器疾患患者は、労作時に呼吸困難感が生じやすく、その要因の一つとして呼気流量制限(EFL)が報告されている。これらの患者は、呼吸困難感を軽減させるためにしばしば上肢支持姿勢を好むことからも、上肢支持姿勢はEFLに影響を与える可能性が考えられるが、これまで上肢支持姿勢でのEFLやEFLの変化に影響を与える肺気量位について検討している報告はほとんどない。 本研究の目的は、呼吸循環器疾患患者を対象に、上肢支持姿勢におけるEFLと肺気量位をflow-volume loop(FVL)を用いて観察し、上肢支持姿勢が呼吸困難感軽減に有効なメカニズムを検討することである。【方法】 対象は、当院の入院または外来リハビリテーションを施行している症状安定期にある呼吸循環器疾患患者9名(男性4名、女性5名、COPD患者6名、CHF患者3名、年齢:78.7±7.8歳、身長:155.5±8.1cm、体重:50.2±10.8kg、%肺活量:63.6±14.7%、%一秒量:43.9±18.2%、酸素療法施行者:5名)。全対象者とも直立位と比べて上肢支持位にて呼吸困難感の軽減がみられていた。 測定肢位は、安静立位(直立位)と上肢支持位の2条件とした。上肢支持位は、立位で体幹を前傾させ、前方に設置した台に両肘を支持した姿勢とし、対象者の最も安楽な状態となるように体幹前傾角度及び台の高さを調節した。直立位で最大吸気・呼気を行わせた後、2条件で安静呼吸をそれぞれ30秒間測定した。肺気量位や流量の測定は呼気ガス分析器(ミナト医科学社製、AE-300S)を用いて測定した。肺気量、流量の波形からduty cycle(吸気時間/全呼吸時間)、呼吸数、一回換気量、最高吸気流量、最高呼気流量、分時換気量を算出した。また、得られた肺気量位、流量の変化から直立位と上肢支持位の安静呼吸中のFVL(restFVL)をそれぞれ作成し、最大吸気・呼気時のFVL(MFVL)の中に描くことでEFL及び肺気量位の変化を観察した。EFLの程度は、呼気時にrestFVLがMFVLに接している、平行に推移している、または超えている肺気量を一回換気量で除した値を用いた。終末吸気肺気量位(EILV)、終末呼気肺気量位(EELV)については、各対象者の肺活量を100%として正規化した値を用いた。また、各測定肢位における呼吸困難感を修正ボルグスケール(BS)にて聴取した。統計学的検定として、直立位と上肢支持位の2条件下における各指標とEILV、EELV、EFL、BSの比較をウイルコクソンの符号付順位検定を用いて行なった。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対して本研究の目的、方法を説明し、書面にて研究参加への同意を得た。また、本研究は兵庫医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 直立位と上肢支持位でduty cycle、呼吸数、一回換気量、最高吸気流量、最高呼気流量、分時換気量とも有意な差は認められなかった。肺気量位は、直立位と比べて上肢支持位でEELV(29.4±12.6% vs 43.0±11.6%)、EILV(65.5±9.8% vs 79.0±10.2%)とも有意(p<0.05)に増加した。全対象者とも直立位においてEFLを呈していたが(87.7±10.6%)、上肢支持位で有意に低下した(62.7±16.4%、p<0.05)。BSは直立位(3.0±0.9)と比べ上肢支持位で有意に低下した(2.2±1.0、p<0.05)。【考察】 直立位と比べ上肢支持位では肺気量位の増加、EFLが軽減し、呼吸困難感の軽減が認められた。EFLは呼気筋活動を増加させ、気道の動的圧迫から動的肺過膨張などの異常な肺気量位変化や換気制限を引き起こし、呼吸困難感の原因になるといわれている。これらの結果から、上肢支持による呼吸困難感軽減の一要因としてEFLの減少が考えられた。また、気道閉塞を伴う疾患で問題となる気道抵抗は肺気量依存という性質を持つ。そのため、上肢支持位でみられた肺気量位の増加は、気道抵抗を減少している可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】 呼吸循環器疾患患者が上肢支持姿勢において呼吸困難感が軽減するメカニズムの一つが明らかになり、根拠をもって呼吸困難感軽減のための動作指導の実施が可能になると考えられた。