理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-18
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ポスター発表
金属支柱付き短下肢装具で片側足関節の運動を制限した健常者における歩行周期の左右対称性-片麻痺者の歩行訓練において目指すべき歩行パタンを求めて-
白銀 暁吉田 直樹木崎 哲本田 晋也川場 康智
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キーワード: 歩行分析, SLB, ゴール設定
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抄録

【はじめに、目的】下肢機能障害者に対する理学療法において、歩行は最も重要な訓練課題の一つである。理学療法士は対象者に指示や介助などを行い、障害された歩行パタンを彼らが目指すものへと改変しようとする。しかし、その目指すべき具体的な歩行パタンについて、これまでのところ統一された指標やガイドラインなどは国内外を問わず見当たらない。強いて言うならば、健常者のいわゆる「正常歩行」を目指して行われているように見受けられる。一方、下肢関節運動を制限したいとき、補装具を用いる。その適切な使用により、障害者は歩行が可能になったり、より効率的に行えるようになったりする。例えば、脳卒中片麻痺者では、足関節の運動を制限する金属支柱付き短下肢装具(以下、AFO)を頻繁に用いる。その歩行訓練では、健常者において典型的で、かつ片麻痺者では損なわれやすい要素である歩行の左右対称性を回復させることを目標とした訓練が従来から行われている。しかし、AFOは関節運動を制限するので、健常者と同じ歩行パタンは原理的に不可能となる。このような場合に目指すべき歩行パタンは、障害が非常に軽度であり、かつ対象関節の機能以外に障害のない者、突き詰めて考えれば、健常者がAFOを装着して歩いたときのものが理想的であると考えられる。AFO装着下で健常者に不可能な歩行パタンは、障害者にとっても不可能である。我々は、健常者の関節運動を制限した歩行と制限しない通常歩行との比較により、目指すべき歩行パタンについて参考となる情報が得られると考えた。本研究は、特に歩行の左右対称性に着目し、健常者の片側AFO装着歩行を計測・解析することで、目指すべき歩行パタンのヒントを得ることを目的とした。【方法】対象は健常男性8 名(24.1 ± 3.8 歳)。全員右利きで、下肢の重篤な整形外科疾患や神経学的疾患の既往はない。見通しがよく平らな床面に約10mの直線歩行路を設定し、その上を歩かせた。計測条件は、1) AFO無しで最も至適歩行を指示する通常条件、2) 右足関節にAFOを装着しできるだけ疲れなく歩くよう指示する安楽条件、3) 同じくAFOを装着しできるだけ装着前に近い歩き方をするよう指示する努力条件の3 つとし、各20 回実施した。AFOは組立式のモジュラーレッグブレース(トクダオルソテック)を使用、被験者の足サイズにあったものを選択し、右足装着後に調整を行って足関節底背屈0 度で固定した。計測は3 次元動作解析装置(VICON)と床反力計(キスラー)で行い、Plug-in-Gait マーカーセットおよびモデルを使用した。立脚時間算出には計測・解析ソフトVicon Nexus 1.7.1 のGait Event Detect Pipelineを用い、目視で確認を行い微調整した。左右対称性は、各立脚時間からsymmetry index [SI = (XR - XL) / 0.5 * (XR + XL) * 100%(XR, XLは左右肢の計測値、SI=0 は左右対称の意)] を求めることで評価した。SIの比較は、有意水準5%で対応のある一元配置分散分析を行い多重比較(Bonferroni法)した。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には事前に内容を説明し、署名により同意を得た。本研究は、埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て実施した(第24006 号)。【結果】各条件における左右肢の立脚時間[sec]は次の通りであった(通常-安楽-努力条件の順、左/右、平均値±標準偏差)。0.66 ± 0.04 / 0.66 ± 0.04、0.70 ± 0.03 / 0.68 ± 0.03、0.71 ± 0.02 / 0.68 ± 0.03。各条件におけるSI[%]は次の通りであった(通常-安楽-努力条件の順、平均値±標準偏差)。-0.2 ± 1.0、3.3 ± 1.6、3.5 ± 2.7。安楽条件と努力条件のSIは、通常条件に比較して有意に大きかった(p=.004、p=.037)。【考察】通常歩行時、SIはほぼ0 と高い左右対称性を示した。これに対し、片側AFO装着はSIを大きくし、対称性を損なわせる可能性を示した。健常者において認められたこのような影響は、障害者にとっても克服し難いと考えられ、目指すべき歩行パタンを考える上で考慮が必要である。ただし、実時間変化は0.1 秒以下であり、理学療法士が観察によって認識可能かどうか、訓練に役立てられるかどうかについては別途検討が必要である。今回は立脚時間のみを扱ったが、このようなアプローチによって、部分的にではあるが目指すべき歩行パタンの参照基準を明らかにできる可能性を示した。今後、関節の角度や角速度など他要因についても調べることで、より有益な情報が得られるだろう。【理学療法学研究としての意義】片側AFO装着時の歩行訓練において目指すべき歩行パタンを明らかにするための理論的枠組みの一例を示し、その方法論を用いて、健常者であっても歩行周期の左右対称性が損なわれることを明らかにした。これは、片側AFO装着下で行う歩行訓練に際して、左右差を減らすことを目的とした場合の上限値となり得る。

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© 2013 日本理学療法士協会
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