理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-16
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ポスター発表
座位での片脚拳上姿勢における臀部荷重の割合と体幹・下肢運動との関係
岩﨑 大地草場 冴子柴田 美奈池田 知弘
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抄録
【はじめに、目的】座位での下衣着衣動作で足尖部にウエスト部分を通す際、上半身を支持側後方に移動させ、不安定な姿勢で動作を行なう患者を目にする。座位での下衣着衣動作では、片脚挙上姿勢(片脚挙上座位)の安定が重要と考える。今回は、健常者を対象に片脚挙上座位の安定を臀部荷重の割合と体幹・下肢運動との関係から明らかにし、評価や治療に繋げることを目的とした。【方法】対象は脊柱・下肢に整形外科的・神経学的疾患の既往が無い成人の男性15 名、女性10 名(平均年齢27.3 ± 4.7 歳 平均BMI21.3 ± 1.9)とした。方法は台上のアニマ社製グラビコーダーGS-31Pの左右プレートの境界に臀裂を合わせて端坐位をとり、Th1 〜Th7 を上位、Th7 〜L1 を下位胸部、L1 〜S1 を腰部として各体幹の長さを測定した。次に両側の肩峰、ASIS とPSISの中点、PSIS、大転子、大腿骨外側上顆へのマーキング後に端坐位を10 秒間保持し、下肢加重検査で臀部荷重の割合と各臀部での圧中心、座圧中心の位置を測定した。その間、上方と左右に設置したカメラで撮影し、体幹回旋、両側の骨盤傾斜と股関節屈曲の角度を写真上で測定した。片脚挙上座位は利き足股関節を120°屈曲し、端坐位と同様の測定・撮影を行なった。統計学的分析は、1)片脚挙上座位で各臀部荷重の割合、各臀部圧中心間の前後方向の長さを全長とした各臀部での圧中心から座圧中心までの長さ(臀部圧前後距離)の割合と方向、骨盤傾斜角の比較、2)端坐位・片脚挙上座位間で各体幹の長さの変化率や体幹全長に占める各体幹の割合、同側臀部の圧中心と座圧中心の移動量、同側の各関節可動域の比較に対応のあるt検定、3)臀部荷重の割合別で挙上側が大きい群(A群)と支持側が大きい群(B群)に分け、各体幹の長さの変化率や体幹全長に占める各体幹の割合、臀部圧前後距離の割合と方向、各関節可動域の比較に対応のないt検定を用いた。また、4)結果1)で有意に多かったA群の端坐位・片脚挙上座位間の各測定値の差の関係性にピアソンの相関係数を用い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、被験者には事前に口頭及び書面にて研究内容を説明し、書面にて同意を得た。【結果】1)臀部荷重の割合は挙上側が大きかった。臀部圧前後距離の割合と方向は挙上側が小さく、後方へ移動していた。骨盤傾斜は挙上側が大きかった。2)片脚挙上座位の各臀部での圧中心と座圧中心は後方へ移動していた。体幹の長さの変化率では下位胸部・腰部に増加、体幹全長に占める割合では腰部に増加が見られた。各関節可動域では体幹の挙上側への回旋、両側の骨盤傾斜、挙上側股関節屈曲に増加、支持側股関節屈曲に減少が見られた。3)臀部圧前後距離の割合ではB群の挙上側が大きく、支持側は小さかった。4)座圧中心の移動量と体幹全長の変化率の差に負の相関(r=-0.456)、体幹全長に占める腰部の割合の差と上位・下位胸部の割合の差に負の相関が見られた(上位:r=-0.543 下位:r=-0.775)。挙上側・支持側ともに同側の骨盤傾斜角の差と股関節屈曲角の差に負の相関が見られた(挙上側:r=-0.914 支持側:r=-0.971)。全て有意水準5%未満である。【考察】脊柱の可動性は腰椎骨盤リズムに影響し、座位では腰椎の動きが主動作として関与することが推察されている。また、座位での下位脊柱の屈曲は、座圧中心を後方へ移動させると報告されている。挙上側の股関節屈曲で腰椎屈曲と骨盤後傾が生じ、挙上側臀部の圧中心が支持側より後方移動することで、座圧中心は挙上側後方へ移動したと考える。しかし、臀部圧前後距離の割合は支持側の方が大きい。挙上側の臀部荷重の割合増加は座圧中心の挙上側後方への移動に対し、支持側臀部の圧中心を相対的に前方移動させ、座圧中心を挙上側の臀部上で留めていることにより、結果的に表されたと考える。また、体幹の回旋も挙上側臀部の圧中心の後方移動を制動し、座圧中心の移動に関与すると考える。したがって、B群は座圧中心を挙上側の臀部上で留めず、支持側臀部に載せて姿勢を保持していると推察される。本研究結果では臀部圧前後距離の割合に直接関係のある体幹・下肢運動は見られなかった。しかし、挙上側・支持側ともに骨盤傾斜角と股関節屈曲角には負の関係が示唆されるため、片脚挙上座位での臀部荷重の割合に関係する体幹・下肢運動には、腰椎・骨盤・股関節を中心とした個人別の運動様式があると予測される。【理学療法学研究としての意義】座位での下衣着衣動作における安定した片脚挙上姿勢とは、体幹・支持側股関節の安定により座圧中心を挙上側の臀部上で留めている状態であることが示唆され、体幹回旋筋群や股関節屈筋・伸筋群の関与が予測される。
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© 2013 日本理学療法士協会
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