理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-24
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ポスター発表
電気刺激がパフォーマンスの安定した運動課題とピンチ力に及ぼす影響
宮田 一弘後閑 浩之臼田 滋
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キーワード: EMS, PNS, 運動課題
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抄録

【はじめに、目的】脳卒中により様々な障害を呈するが、なかでも上肢運動麻痺は日常生活に大きな影響を与える。感覚入力は、正確な運動とより効果的な運動学習に必要であるとされている。脳卒中者の上肢機能障害に対する治療法として、末梢神経感覚刺激(peripheral nerve sensory stimulation:PNS)により大脳皮質運動野の神経活動が修飾され、その結果、運動パフォーマンスを向上させる手法が注目されている。しかし、このPNSは介入時間が60 〜120 分程度必要であるとされており、臨床的に使用するには困難さがある。一方で近年、運動閾値下の強度で筋刺激(electrical muscle stimulation:EMS)を用いた研究で比較的短時間の刺激でも大脳皮質の運動関連領域の興奮性が亢進する可能性が示唆されている。そのため、筋刺激後に運動を行うことで能力向上が期待できると考える。そこで、本研究では、健常者に対しEMSとPNSそれぞれがパフォーマンスの安定した運動課題とピンチ力に及ぼす影響を検討した。【方法】健常成人8 名(年齢23-28 歳)、計16 手を対象とした。運動課題は、2 つの木球(40mm)を掌でできるだけ多く回す巧緻課題を用い、事前に十分な練習を行い運動パフォーマンスが安定したところで電気刺激を加えた。電気刺激は、EMSとPNS の2 種類を全ての被験者に実施した。EMSはトリオ300(伊藤超短波製)を用い、刺激電極は母指球筋に貼付した。刺激パラメーターは、Uehara(2012)の先行研究を参考にし周波数100Hz、パルス幅100 μs、強度は運動閾値以下、刺激時間は120 秒とした。PNSはコンビ200(酒井医療製)を用い、刺激電極は、前腕部で正中・尺骨神経を覆うように貼付した。刺激パラメーターは、Ikuno(2012)の先行研究を参考にし周波数10Hz、パルス幅1ms、強度は感覚閾値上、刺激時間は60 分とした。また、運動課題は1 試行につき15 秒で全10 回実施した。両刺激のプロトコルは、EMSでは前半5 試行は運動課題のみを実施し、後半はEMS直後に運動課題行うことを1 試行とし5 試行繰り返した。PNSは電気刺激前に5 試行を行い、60 分の刺激後に5 試行を実施した。評価は、運動課題の様子をビデオカメラで撮影し回転数を調査した。電気刺激の有無で運動課題に対する円滑さをVisual Analog Scale(VAS)にて確認し、母指-示指によるピンチ力を計測した。統計解析は、運動課題に関しては電気刺激の有無と測定試行の2 要因による反復測定2 元配置分散分析を行い、VASとピンチ力は対応のあるt-検定にて行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学倫理審査委員会の承認を得て上で、全ての対象者に研究の内容について説明後、書面にて同意を得た。【結果】運動課題は、事前練習によりパフォーマンスの安定していた1-5 試行と電気刺激後の6-10 試行での各刺激条件での平均値±SDはEMS:pre27.4 ± 4.2 回、post29.2 ± 3.7 回であり、PNS:pre27.9 ± 2.7 回、post28.7 ± 2.9 回であった。2 要因による反復測定2 元配置分散分析の結果、両電気刺激ともに交互作用は認めず、電気刺激の有無による主効果が有意であり、電気刺激を加えた方が回転数が有意に多かった(EMS:F=30.468、p<0.001、PNS:F=5.611、p<0.05)。VASによる円滑さにおいても、EMS(pre52.8 ± 16.9 mm、post75.9 ± 12.7 mm、p<0.01)、PNS(pre54.3 ± 19.2 mm、post67.3 ± 17.9 mm、p<0.05)ともに有意な向上が認められた。ピンチ力はEMS、PNS両刺激において有意な変化は認めなかった(p>0.05)。【考察】本研究のEMS、PNSともに刺激後に即時的な運動パフォーマンス向上が認められた。PNSは、脳卒中者に対する先行研究と同様のパラメーターを用いており、健常者においても同様の効果があることが確認された。それに対して、EMSはPNS に比べると極短時間の刺激でもピンチ力などの筋力には影響は与えずに、運動パフォーマンスを向上させる可能性が示唆され、運動課題練習に付加的価値を与えられるものであると考えられる。また、EMSは円滑さにおける内省の向上も認められ、EMSによる負の要因は少ないことが考えられる。両刺激とも末梢からの求心性感覚入力が大脳皮質運動感覚野へ作用していることが考えられ、今後は、EMSの有用性を刺激後の効果残存時間という観点から調査していきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究は、短時間のEMSが運動パフォーマンス向上に長時間の刺激を要するPNSに比べ、運動技能を向上へと導く方法として有意義な知見である可能性が示唆された。

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© 2013 日本理学療法士協会
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