理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-24
会議情報

ポスター発表
等尺性収縮を用いた母指対立運動の運動イメージ収縮強度が脊髄神経機能の興奮性に与える影響-10,30,50,70%収縮強度における検討-
文野 住文鬼形 周恵子岩月 宏泰鈴木 俊明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】運動イメージにより中枢神経機能が賦活されるという報告は多数あるものの、脊髄神経機能に与える影響に関しては、一定の見解が得られていないのが現状である。本研究では、運動イメージする収縮強度の違いが脊髄神経機能興奮性変化に与える影響についてF波を用いて検討した。【方法】対象は、健常者10 名(男性5 名、女性5 名)、平均年齢28.7 歳であった。安静時とピンチメータセンサーを用いた最大収縮の10%収縮強度での母指対立運動課題、ピンチメータセンサーを軽く把持しながら最大収縮の10%収縮強度での母指対立運動イメージした状態と運動イメージ直後、5 分後、10 分後および15 分後の各時点でF波出現頻度、振幅F/M比および立ち上がり潜時を測定した。以上の課題を10%条件とし、30、50 および70%条件についても同様の流れで行った。また各条件の測定は、違う日にランダムに行った。本研究における検討は、第1 に個々の条件について運動イメージの効果を検討するために、Dunnett 検定を用い、運動イメージ試行、運動イメージ直後、5 分後、10 分後および15 分後のF波出現頻度、振幅F/M比および立ち上がり潜時について安静試行のものと比較した。第2 に運動イメージ試行、運動イメージ直後、5 分後、10 分後、15 分後、それぞれにおけるF波出現頻度、振幅F/M比について安静試行を1 とする相対値を求め、10、30、50 および70%の4 条件間で対応する相対値をFriedman検定により比較した。【倫理的配慮、説明と同意】被検者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】F波出現頻度、振幅F/M比は、10、30、50 および70%、全ての収縮条件の運動イメージ試行において、安静試行と比較して有意に増加した(p<0.01)。F波出現頻度、振幅F/M比の安静時に対する相対値は、10、30、50 および70%、全ての収縮条件間に有意差を認めなかった。【考察】全ての収縮条件において、運動イメージにより脊髄神経機能の興奮性が増大したことについて、大脳皮質より母指球筋に対応する下行性線維の影響が考えられる。運動イメージは一次運動野(M1)、補足運動野(SMA)、運動前野(PM)、小脳(CRB)および大脳基底核(BG)を賦活させるといわれている。SMA、PM、CRB、BGは運動の準備企画や制御に関与するとされ、これらの部位は、それぞれM1 に投射し、皮質脊髄路を介して脊髄前角細胞の興奮性を増大させた結果であると考える。加えて、ピンチメータセンサー把持時の触圧覚や固有受容感覚の影響が考えられる。触圧覚の伝導路には、前脊髄視床路と後索・内側毛帯路があり一次体性感覚野に投射する。さらに一次体性感覚野から運動野に投射する。深部感覚の伝導路には後索路と脊髄小脳路があり、脊髄小脳路では小脳核よりさらに赤核・視床核を経由して運動野に投射する。また、体性感覚の中継点である視床より直接運動野に投射する線維がある。よって触圧覚や固有受容感覚が大脳皮質レベルの興奮性を増大させ、相乗効果として脊髄神経機能の興奮性増大に寄与した可能性が考えられる。次に、運動イメージする収縮強度間に有意差を認めなかったことについて考察する。事象関連電位を用いた検討において、運動実行試行の一次運動野(M1)、補足運動野(SMA)および運動前野(PM)の活動全てに力発揮量との相関がみられた。しかし運動イメージ時のM1 の活動は力発揮量と相関がなく、SMAとPMに力発揮量との相関がみられ、力発揮課題における運動実行試行と運動イメージ試行のSMAとPMの活動は、力発揮量の増加によって増大するが、M1 の活動は力発揮量に依存しないことが報告されている(Romero、2000)。さらに、運動イメージする収縮強度の違いが運動誘発電位(MEP)振幅に変化を及ぼさなかったという報告がある(Park、2011)。これらの報告より運動イメージする収縮強度の違いが大脳皮質レベルでの興奮性変化に関与しなかった結果、脊髄神経機能の興奮性にも影響を及ぼさなかったのではないかと考える。またSMAとPMは、運動の準備に関与すると同時に運動を抑制する機能をもつ。運動イメージは実際の運動を伴わない脳内の心的リハーサルといわれている。SMAとPMが運動の準備過程と同時に収縮強度に応じた筋活動の抑制に関与し、M1 の活動において運動イメージする収縮強度間に差がみられなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究より、運動イメージは脊髄神経機能の興奮性を増大させることがわかった。また10、30、50 および70%収縮強度においては、運動イメージする収縮強度の違いは脊髄神経機能の興奮性変化に関与しないことが示唆された。また、運動イメージによる脊髄神経機能の興奮性は、運動イメージ中のみであったことから、理学療法において、目的とする動作をイメージしながら行うことが課題運動遂行上重要であることがわかった。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top