理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-25
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ポスター発表
3 次元動作解析装置による股関節回旋角度計測時における大腿マーカー動態について
永田 正夫福井 勉
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抄録

【はじめに、目的】3 次元動作解析装置による計測時には、皮膚の動き(skin movement artifact以下artifact)が計測値に影響を与え誤差を生む。股関節回旋運動の計測時には、大腿に貼付するマーカーへのartifactが計測値に影響を及ぼし、貼付位置によって算出される股関節回旋角度が異なる。そのため我々はartifactの影響の少ない大腿マーカー位置として、遠位前外側部に貼付することを提案し、その部位から算出された股関節回旋角度計測値の誤差が統計学的に有意に小さいことを第47 回本学会で報告した。しかし、この位置のartifactの影響が少ない原因は定かでなく、大腿回旋時のマーカーがどの様な動態であるかは明らかとなっていない。この点を明らかにすることは、正確な股関節回旋角度計測時の大腿マーカー貼付位置の決定に有効な情報となりえるため、本研究においては大腿回旋時の大腿マーカー動態を調査することを目的とした。【方法】対象は健常成人男性10 名であった。計測機器はVICON (カメラ8 台、sampling rate 100Hz)にて行った。身体標点として、赤外線反射標点をplug-in-gait下肢モデルにより定められた所定の位置に計15 個貼付した。右側大腿マーカーについては、前列aとしてasisから外側上顆にかけて直線を引き、下1/4 の位置amと、そこから上as、下ai、4cmの位置に計3 点、中列cとしてasisとpsisを結んだ線の中点から外側上顆にかけて直線を引き、同様に上からca、cm、ciの3 点、後列pとしてpsisから外側上顆にかけて直線を引き、同様に上からpa、pm、piの3 点、合計9 点のマーカーを貼付した。動作課題は立位における右側下肢の長軸回旋とした。対象被験者は、膝関節伸展位でボールベアリングターンテーブル上に立位姿勢を取り、骨盤が動かないように固定された。この状態で右側下肢を股関節回旋させ、その際ターンテーブルは、内外旋それぞれ30°回転すると止まるように設定された。計測中膝関節は伸展位で固定されていることを確認した。被験者は練習を行った後、3 回ずつの測定を行った。前回の報告で最も誤差の少なかったaiマーカーが股関節最大回旋角度を示す時期を基準とし、前後列a、c、p、上下列s、m、iのマーカーのx軸、y軸、z軸毎の移動量を算出した。各列間と方向毎の移動量に差があるかを有意水準5%未満としてBonferroni検定を用いて解析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には、予め実験の目的および内容を口頭並びに書面にて説明し、実験参加への同意を得た。【結果】上下列の各方向と移動量は、内外旋どちらともy>x>zの順で有意な差があったが、s、m、i列間では有意差はなかった。前後列の各方向とその移動量は、内旋時にはy>x>zの順で有意な差が認められたが、外旋時はp列のみyとx間に有意差はなく、a列、c列は内旋と同様であった。a、c、p列間では、内旋時にはxはa列>(c列=p列)で有意差があり、y、zに差はなかった。外旋時には、xにおいてp列>(a列=c列)で、yはa列>c列>p列、zはa列>c列>p列と有意差があった。(p<0.05)【考察】回の研究により、内外旋時、s、m、i列間ではx、y、z軸の移動方向とその移動量に有意差はなく、大腿遠位上下8cm幅においては、マーカーの動きに差はないと考えられた。そのため、股関節回旋角度の計測値に遠位部に有意差が見られたのは、遠位ほど大腿骨と皮膚間の軟部組織の占める容積や距離が減少することが関係しているものと考えられた。一方で、a、c、p列間では、内外旋で共通した傾向を観ることはできなかった。しかし、上下列間においては優位差が無かったものが、前後列間を比較した際に大きな誤差が見られたことは、artifactが前後位置で大きな違いがあることが考えられた。その一因として、artifactは動作依存性があり各動作時の皮膚の動きが異なることから、膝関節伸展位であったことと共に前面の膝関節伸筋の緊張状態なども関係している可能性も伺えた。【理学療法学研究としての意義】大腿回旋時の大腿マーカーの部位毎の移動量の違いを一部明らかにすることができた。こうした動態を明らかにしていくことは、股関節回旋運動を正確に計測する際の大腿マーカー貼付位置決定に有効な情報となりえる。今後は前後方向における傾向を明らかにすることと同様に、遠位部のみならず大腿部全体に渡って回旋時にどの様な動きをするかを調査し、その上で、様々な動作時の正確な股関節回旋角度の計測を検討する所存である。

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© 2013 日本理学療法士協会
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