理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-14
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ポスター発表
脳卒中後片麻痺患者の後方ステップテストと転倒リスク評価との関連性
山田 由佳管原 一禎小鹿 淳史久家 直巳
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抄録
【はじめに、目的】 歩行可能な在宅脳卒中患者の退院後1年間の転倒割合は60%以上と報告されている.そのため,退院時の転倒リスクの評価が重要となる.通常は転倒リスクの評価として,Berg Balance Scale,Timed Up and Go test(以下TUG),Functional Reach test,片脚立位保持時間などが一般的に用いられる.しかし,転倒回避に関与すると考えられる後方に対する下肢の敏捷性についての評価法は報告されていない.我々は先行研究で,後方への下肢の敏捷性を調べるテストとして後方ステップテスト(Backward Step Test以下BST)を考案し,その信頼性と妥当性を報告した.今回,脳卒中後片麻痺患者の後方への敏捷性を評価することを目的にBSTを実施して健常高齢者と比較し,筋力,立位バランス,動作能力との関連性を検討した.【方法】 健常中高齢者21名(男性9名,女性12名,平均年齢66.0±6.0歳,55~76歳),当院入院中の脳卒中後片麻痺患者22名(女性7名,男性16名,年齢68.3±8.8歳,53~81歳)を対象とした.Br.stageⅤ以上で10m以上の独歩が可能な者とした.測定に支障となる疾病および障害を有している場合は除外した.BSTの手順は,1)横に引いた長さ70cm,幅 2cm の一本の白線の前方に両下肢を開いて立つ,2)スタートの合図でどちらか一方の下肢で白線を後ろ向きに跨いですぐに戻す,3)対側下肢でも同様に白線を跨ぎ戻す,4)一方の下肢が白線を跨いで戻すまでを10 回反復した.ストップウォッチを用いて所要時間(秒)を測定した.対象者は測定前に十分に練習を行った.筋力測定は等尺性筋力計(ANIMA,μ-tas F-1)を使用し,膝伸展筋力(体重比)を用いた.立位バランステストとして片脚立位保持時間,動作能力テストとして10m最大歩行速度,TUGを行った.膝伸展筋力,片脚立位保持時間は両側下肢でそれぞれ実施した.統計解析には健常中高齢者との比較に対応のないt検定を用い,BSTと他の評価との関連性にはピアソンの相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て,対象者に研究の趣旨と内容について説明し同意を得た上で行った.【結果】 脳卒中後片麻痺患者の年齢は68.3±8.8歳,健常者の年齢は66.0±6.0歳で有意差はなかった.脳卒中後片麻痺患者のBSTは16.2±4.7秒であり,健常者の平均値7.9±1.5秒と比較し,有意な低下がみられた(p<0.001).また,TUG10.6±3.1秒,10m最大歩行テスト80.5±21.9m/min,非麻痺側片脚立位保持時間14.9±16.9秒,麻痺側片脚立位保持時間16.9±26.7秒,非麻痺側膝伸展筋力41.1±10%,麻痺側膝伸展筋力41.5±10%であった.BSTと他の指標との相関では,TUG(r=0.76,p<0.001),10m最大歩行テスト(r=-0.75,p<0.001)との間に有意な相関が認められた.一方,非麻痺側片脚立位保持時間(r=-0.12,p=0.96),麻痺側片脚立位保持時間(r=-0.01,p=0.99),非麻痺側膝伸展筋力(r=‐0.32,p=0.15),麻痺側膝伸展筋力(r=-0.15,p=0.50)には有意な相関は認められなかった.【考察】 BSTは後方への敏捷性を評価することを目的に考案した.対象である脳卒中後片麻痺患者は健常者よりもBSTの平均値は有意に低下していた.このことにより脳卒中後片麻痺患者は後方への下肢の敏捷性が低下していると考えられる.また,BSTはTUG,10m最大歩行テストとの間に有意な相関がみられたが,片脚立位保持時間,筋力とは有意な相関が認められなかった.今回の研究結果からBSTは筋力(膝伸展筋力),立位バランス(片脚立位保持時間)以外の要素を含んだ評価であることが示唆された.脳卒中後片麻痺患者は運動麻痺や感覚障害など神経症状,身体活動量低下による関節可動域制限などによりバランス障害を呈しており,身体・精神機能の低下が軽度な患者においても転倒割合が高いと報告されている.今回の結果から,一般的に用いられるバランス評価,筋力測定に加え,BSTの測定が転倒リスクの評価として使用できる可能性があると考えられる.脳卒中後片麻痺患者の転倒経験者は非転倒経験者と比較して,その後1年間に転倒する可能性が13倍になるともいわれている.よって在宅復帰前に転倒リスクがある対象者の早期発見が重要になるため,今後,対象者の人数を増やしBSTの遅延が転倒に与える影響を調査していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究よりBSTは脳卒中後片麻痺患者の後方への転倒リスクの評価項目として使用できる可能性がある.今後,BSTの遅延と転倒の関連性を明らかにするため在宅復帰後の脳卒中後片麻痺患者に対し転倒歴の調査を実施していくことが重要であると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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