抄録
【はじめに】当施設では、地域支援事業の対象となった方に対する3か月間の高齢者筋力向上トレーニング(以下、教室)を実施している。また、教室終了後には継続的な自主トレーニングを促進させる目的で運動継続に関する定期的なアンケート調査や、当施設無料開放など独自のサービスを提供するとともに、教室終了者の運動継続状況と運動機能の変化についても着目し、データの蓄積および効果検証に取り組んでいる。そこで本研究では教室利用者の身体機能について、教室前後の効果および教室終了後1年経過時の自主トレーニングの継続状況の違いにより検討することを目的とし一定の知見を得たので報告する。【方法】対象は、平成20年4月から平成23年1月の間に9期(各期:2日/週、3か月継続)に分けて実施した教室のいずれかに参加し問題なく終了した59名のうち、運動継続に関するアンケート調査にて回収できた40名(男性13名、女性27名、平均年齢77±5.32歳)を分析対象とした。運動継続性のアンケートは「運動施設の利用状況」と「自主トレーニングの実施頻度」について調査した。運動機能については対象者から得られたSF-36の身体機能(Physical Functioning:以下、PF)の点数を教室開始時・終了時・終了後1年経過時の3期で算出した。そのPF値を教室の開始時および終了時、開始時および終了後1年経過時、ならびに終了時および1年経過時において比較検討し教室の効果を検証した。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、研究内容及び個人情報の保護などに対する配慮を十分に説明の上、同意を得た。また本研究において得られた全結果においては、鍵付きキャビネットにより保管し情報漏洩に十分配慮した。【結果】PFを用いて教室前後で運動機能を比較した結果、向上した人は40名中25名(58%)、変化がなかった人は4名(10%)、低下した人は13名(33%)であった。また、運動機能が向上した人の中には2~2.7倍向上した対象者もあり一定の効果を得られた。教室前と終了後1年経過時の比較では、向上16名(40%)、変化なし5名(13%)、低下19名(48%)であり、運動機能向上した対象者は18%減少し、低下は15%増加した。しかしながら、終了時のPFよりも終了1年後経過時が向上した者は13名、そのうち11名(85%)は終了後1年間運動を自主的に継続してきた人であり、1年経過しても1.5~3.25倍に運動機能が向上した者も存在していた。運動継続性について行なったアンケート調査では、対象の40名中29名(73%)が教室終了後の1年間にわたり運動を継続していた。運動継続者29名の自主トレーニングの実施頻度は、週1~2回は16名(55%)、週3回以上は8名(26%)、ほぼ毎日は5名(17%)であった。【考察】地域支援事業は、生活機能の低下等により、今後介護や支援が必要となる可能性が高い方を対象に、状態の悪化を防止するために行われている。当施設における教室の効果では、全対象の約60%でPFが向上し良好な傾向を示した。また、教室終了後の自己管理下においても運動の継続者では向上する傾向にあり、あらためて運動継続の重要性とともに、介護予防や地域リハビリテーションにおける理学療法士ならびに専門職の役割を再確認できる結果となった。教室終了後に教室スタッフ(理学療法士・看護師・健康運動指導士)が直接身体状況をアセスメントする機会はないため、今回のようにアンケート調査に頼らざるをえないが、一定の効果を検証できたことは高齢者の介護予防や健康増進に十分意義があるものと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法士が地域住民の介護予防や健康増進に貢献する側面、その効果を図る研究的側面など様々な意義を有している。さらに本研究を多施設間に展開し、継続および発展させる必要がある。