理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-S-01
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セレクション口述発表
施設入所高齢者の歩行能力に影響を及ぼす体幹および下肢筋の筋萎縮に関する縦断的研究
池添 冬芽中村 雅俊島 浩人浅川 康吉市橋 則明
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キーワード: 筋萎縮, 歩行, 加齢変化
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抄録
【はじめに、目的】近年、我々は歩行困難な高齢者では下肢筋のなかでも大腿四頭筋の筋萎縮が著しく、一方で歩行が自立している高齢者ではヒラメ筋の萎縮の程度が少ないことを報告した(Eur J Appl Physiol, 2011)。さらに体幹筋についても歩行困難で長期臥床している高齢者では脊柱起立筋や腹横筋、多裂筋の萎縮が著しいことを報告した(Eur J Appl Physiol, 2012)。しかし、この高齢者の筋萎縮と歩行能力との関連性についての我々の先行研究は横断的に分析した研究であり、例えば大腿四頭筋の筋萎縮により歩行困難となったのか、あるいは歩行していないことによって大腿四頭筋が萎縮しているのか、その因果関係については明らかではなかった。そこで本研究は施設に入所している高齢女性の歩行能力および体幹・下肢筋の筋量について1年間追跡調査を行い、虚弱高齢者における歩行能力低下と体幹・下肢筋の筋萎縮との関連性について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は施設入所高齢女性21名(年齢82.4±6.5歳)とした。なお、歩行が自立している者を対象とし、測定に大きな影響を及ぼすほどの重度の神経学的障害や筋骨格系障害および認知障害を有する者は対象から除外した。 超音波診断装置(GE横河メディカルシステム社製)を用い、筋肉を圧迫しないようにプローブを皮膚に軽く接触させたときの超音波画像を記録し、右側の体幹筋および下肢筋の筋厚を測定した。測定筋は体幹筋が腰部脊柱起立筋、腰部多裂筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、下肢筋が大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腰筋、大腿直筋、外側広筋、中間広筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋の計17筋とした。 歩行能力の評価として、5mの歩行路をできるだけ速く歩行させたときの最大歩行速度を測定した。 歩行能力および各筋の筋厚の1年間の変化について、対応のあるt検定を用いて分析した。また、1年間での歩行能力および筋厚の変化率(1年後の値-ベースライン値/ベースライン値×100)を算出し、歩行能力の変化率と各筋の筋厚変化率との間のpearsonの相関係数を求め、有意性の検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】すべての対象者に本研究の十分な説明を行い、同意を得た。なお、本研究は本学医学研究科の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】最大歩行速度はベースライン時1.28±0.37 m/sから1年後1.10±0.32 m/sと1年間で有意な低下が認められた(低下率:12.7%)。体幹筋および下肢筋の筋厚において、1年後に有意な低下がみられたのは脊柱起立筋(低下率:12.0%)、大腿直筋(低下率:28.3%)、外側広筋(低下率:17.3%)、中間広筋(低下率:19.9%)、前脛骨筋(低下率:12.8%)の5筋であり、多裂筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腰筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋の筋厚では1年間で変化は認められなかった。 1年間での歩行速度の変化率と筋厚の変化率との関連について、体幹筋・下肢筋のなかでは外側広筋の変化率のみ歩行速度の変化率との間に有意な相関が認められた(r=0.52, p<0.05)。【考察】施設入所高齢女性の最大歩行速度を追跡調査した結果、歩行速度は1年後に有意に低下していたことから、虚弱高齢者においては1年間で歩行能力低下が進行していることが確認された。さらに体幹・下肢筋の筋萎縮については、脊柱起立筋、大腿四頭筋、前脛骨筋において加齢による筋萎縮が進行していることが示唆された。 高齢女性の歩行能力低下と体幹・下肢筋の筋萎縮との関連については、外側広筋の筋厚変化率のみ歩行速度の変化率との間に相関が認められた。このことから、虚弱高齢者の歩行能力低下は体幹・下肢筋のなかでも大腿四頭筋の筋萎縮との関連が強いことが示唆された。すなわち、横断的分析によって高齢者の歩行能力と大腿四頭筋の筋萎縮との関連性を示した我々の先行研究と同様の結果が今回の縦断的研究によっても確認された。【理学療法学研究としての意義】今回、施設入所高齢女性の歩行能力および体幹・下肢筋の筋萎縮との関連について縦断的研究を行った結果、加齢に伴う歩行能力の低下、特に最大歩行速度の低下には大腿四頭筋の筋萎縮が影響していることが示唆された。本研究によって高齢者の歩行能力の維持・向上に対して、どのような筋力トレーニングが重要であるか、より具体的な運動療法の指針の確立に向けて研究が発展することが期待される。
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© 2013 日本理学療法士協会
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