抄録
【はじめに,目的】 近年,股関節疾患患者に対する評価に主観的QOLを用いた報告は増加傾向にある.我々も以前よりMOS Short Form-36 scale ver.2.0(以下SF-36)やOxford Hip Score(以下OHS)を用いてQOL評価を実施してきた.しかし,SF-36は包括的健康尺度であり,股関節に特化した尺度ではなく,OHSは洋式生活を中心とした質問であり日本独特の生活様式は把握できなかった.日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下JHEQ)は,日本整形外科学会により作成され,和式生活に対する質問が含まれた疾患特異的尺度である.しかし,JHEQを用いてQOL評価を行った報告は少ない.そこで,今回の目的は,JHEQを用いて人工股関節全置換術(以下THA)前の変形性股関節症(以下OA)患者のQOLを評価することとした.【方法】 対象はOAを罹患しTHA施行目的で入院された27例28関節とした.性別は女性24例,男性3例,平均年齢は65.5歳(46-81歳)であった.全例に対して術前にJHEQを用いて主観的QOL評価を行った.JHEQは,痛み,動作,メンタルの3つの下位尺度から構成される自己記入式アンケートである.設問数は21問であり,設問ごとに0点から4点の配点が与えられる.よって,下位尺度では0点から28点,合計点では0点から84点となり,点数が高いほどQOLがよいことを表す.また,合計点に含まず単独の指標として股関節の状態不満足度をVAS(0-100点)にて評価され,点数が高いほど不満が強いことを表す.検討項目は,1)下位尺度ごとの合計点とすべての合計点,不満足度の点数を算出した.2)設問ごとに回答に対する相対度数を算出し,各下位尺度の特徴を調査した.3)下位尺度,合計点,不満足度との関係性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計解析ソフトは,SPSS 20.0を使用した.【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得られたものに対して実施した.【結果】各下位尺度の点数は,痛み6.9±3.7点,動作5.2±4.3点,メンタル10.6±6.6点,合計点22.7±11.6点であった.不満足度は75.7±29.3点であった.下位尺度ごとの特徴として,痛みでは動き出す時に痛むか,痛みのために動かしにくいか,痛みのために力が入りにくいかといった設問で低値を示すものが多く,動作では床や畳からの立ち上がり,和式トイレの使用,足の爪切りについて低値を示すものが多かった.メンタルは低値を多く示す設問はなかった.また,すべての下位尺度は合計点と有意な相関を認め(痛み:r=0.5301,動作:r=0.7891,メンタル:r=0.8682,すべてp<0.01),動作においてはメンタルと不満足度と有意な相関を認めた(メンタル:r=0.5210,p<0.01,不満足度:r=-0.3771,p<0.05).【考察】 THA前のOA患者にJHEQを用いてQOL評価を行った結果,下位尺度の動作が最も低く,メンタルが最も高いことがわかった.末期OA患者は,OA由来の疼痛から可動域制限や筋力低下が生じ,日常生活動作にも影響が及ぶ.その結果としてQOLの低下も生じるといわれている.我々は過去にSF-36を用いて術前のQOL評価を行い,身体機能,体の痛み,心の健康の順に低値であった.今回も同様の結果であり,THAを受ける末期OA患者は動作面のQOLの低下がより大きい状態であることがわかった.下位尺度ごとでは,痛みは動作開始時の痛み,痛みによる動きにくさや力の入れにくさにおいて低値であったことから,安静時の疼痛より運動時の疼痛がより深刻になっていることがわかった.動作では,床上動作や和式トイレの使用,爪切り動作において低値を示した.床上動作や和式トイレは日本の生活スタイルに近く,股関節の可動性と支持性の両者が必要とされ,爪切り動作は上肢を足先までリーチするために股関節により大きな可動性を必要とする.これらは,OAによる可動域制限や筋力低下により自立度が低いとされており,JHEQにおいてもその影響が反映されたのではないかと思われる.また,動作はメンタルと不満足度と有意な相関を示しており,動作能力の低下は精神面だけでなく,股関節全体に対する不満にも影響を及ぼすことから,QOLの低下における重要な要因であると思われる.【理学療法学研究としての意義】 JHEQは,患者自身が行う主観的評価尺度であり,患者へ直接聞くことで股関節症状に対する思いや不安などの問題点が明確となる.今回は,THAが適応となったOA患者を対象に評価を行った結果,メンタルは比較的保たれていたが,痛みと動作が低かった.特に動作は,精神面だけでなく股関節全体に対する不満にも影響を及ぼしており,末期OA患者の動作能力の低下がより深刻であることがわかった.この動作面に対して我々理学療法士は介入が可能であり,運動療法や代償動作を駆使して,少しでも末期OA患者のQOL向上に寄与できればよいと考える.