理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-02
会議情報

一般口述発表
サルコペニア離脱を目的とした透析中の積極的運動療法の取り組み
ABA法を採用したシングルケースデザインによる効果検証
槻本 直也坂口 顕岩元 則幸
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】サルコペニアは,筋肉量の減少に加えて,筋力低下または身体能力低下のいずれかを併せ持つ病態であり,透析患者はその罹患率が高いと報告されている.サルコペニアに当てはまる患者は,転倒の発生頻度が高く,生命予後不良,動脈硬化性病変との関連も指摘されている.その予防策として運動療法の介入が最も重要であるが,時間的な制約や透析後の疲労などにより積極的に実施出来ないのが現状である.今回,通常の運動療法プログラムに加えて,透析中の運動療法を積極的に実施し,サルコペニアに対する運動療法の効果を検討したので報告する.【方法】研究方法は,ABA法によるシングルケースデザインを採用.症例は,本院にて通院透析を継続する75歳,男性,透析歴48ヶ月,the European Working Group on Sarcopenia in Older People(以下,EWGSOP)の診断基準より,サルコペニアと診断された患者を対象とした.各セッションは,まず基礎水準測定期A1(以下,A1期)にて通常の運動療法プログラムを実施.その後,透析中の運動療法(ペダル運動,下肢筋力訓練)を加えた操作導入期B(以下,B期),最後に透析中の運動療法を休止し,通常プログラムに戻した基礎水準測定期A2(以下,A2期)とした.なおA1期,B期,A2期の治療期間をそれぞれ1ヶ月間と設定した.理学療法介入は通院透析時の週3回とし,運動強度は,循環器系のリスクを考慮して、Borg指数の「楽である」~「ややきつい」の11~13になるように強度を調整した.評価は,理学療法毎に血圧,脈拍,ハンドヘルドダイナモメーター(日本メディックス社製)を使用した大腿四頭筋筋力測定を行い,それぞれ中央分割法を用いて,原則目視にて判定した.また分析を補完するため二項検定を行った.各セッションの最終日には,歩行速度,握力,inbodyS20による筋肉量(Bio space社製)を測定した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究に当たり主治医の許可を得たうえで,対象患者には本研究の主旨を説明し,文章による同意を得てから実施した.【結果】各セッションにおいて,一度も脱落せずに治療介入することができた.運動療法前での血圧,脈拍は,136.3±6.8/68.6±6.7mmHg・76.2±2.6回/分,運動療法後は138.7±9.2/69.6±5.3 mmHg・75.7±2.9回/分と明らかな変化は確認できなかった.大腿四頭筋筋力は,A1期start 16.2kgf→after 16.3kgf,B期start 16.6kgf→after 20.15kgf,A2期start 19.8kgf→after 18.8kgfと目視にてB期後,右肩上がりを示したが,A2期では,右肩下がりを示した.同様に歩行速度A1:0.77m/sec→B:0.97m/sec→A2:0.92m/sec,全身の筋肉量A1:18.8kg→B:19.6kg→A2:19.1kgとB終了後が最も高い値を示したが,握力A1:19.5kg→B:19.2kg→A2:18.9kgは,その傾向を示さなかった.【考察】通常プログラムに加え,持続的なペダル運動や等尺性収縮を用いた筋力増強訓練により筋力増強効果だけでなく,歩行速度の改善を得られたのではないかと考える.筋力増強など運動療法により生じる乳酸も,透析中には重炭酸などを潤沢に含んだ透析液が緩衝してくれるので,代謝性アシドーシスの影響も少ない.今回の対象患者において,一度も運動を中止せず,EWGSOPによるサルコペニアの診断基準から離脱することができたことは,時間的な制約や運動療法による弊害に対して考慮した結果であると考える.【理学療法学研究としての意義】透析患者は,積極的に運動療法を実施することが難しいが,透析中に関わることでそれらの問題点を改善でき,運動療法が透析患者のサルコペニアを防ぐ手段になると考えている.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top