理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-18
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ポスター発表
脳卒中患者における障害物を跨ぐための歩幅調節について
中野 渉松永 夏菜大橋 ゆかり
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抄録
【はじめに、目的】脳卒中患者の転倒頻度は高く,転倒要因の1 つとして障害物が関連していることから,脳卒中患者の障害物回避について検討することは重要である。歩行中に障害物を跨ぐ場合には,障害物へ到達するまでの歩幅調節により,障害物を跨ぐための最適な足部位置が確保される。一方,脳卒中患者における歩行の特徴は非対称性である。障害物跨ぎ動作は非対称的な動作であるため,障害物を跨ぐための歩幅調節において,麻痺側と非麻痺側が歩幅調節方法へ影響する可能性がある。そこで,本研究の目的は1)脳卒中患者が歩行中に障害物を跨ぐ場合の障害物跨ぎ足(麻痺側・非麻痺側)と歩幅調節方法との関係を明らかにする 2)麻痺側と非麻痺側のどちらかで優先的に歩幅調節を行うかを明らかにすることである。【方法】対象は脳卒中患者12 名(男性7 名,女性5 名)である。平均年齢は67.8(8.5)歳,発症から測定までの期間の中央値は99.5(64.3-123)日であった。測定にはクラフト紙を添付した直線歩行路を用いた。障害物は高さ1cm,奥行き4cmの木製板を使用し,歩行路の一定箇所に設置した。測定課題は,歩行路上を快適な速度で歩行し,障害物を跨ぐことである。靴底踵部分に各試行で異なった色のインクを染み込ませた2cm四方のスポンジを添付し,踵接地位置を記録した。対象者は15 試行の障害物跨ぎ試行を実施した。測定後,踵接地位置をもとに障害物直近の13 歩と跨ぎ幅を定規を用いて0.1cm単位で測定した。障害物より6 歩手前から13 歩手前の8 歩分の歩幅(麻痺側4 歩・非麻痺側4 歩)の15 試行分の平均と標準偏差を求め,各対象者における通常歩行時の歩幅とばらつきと定義した。障害物直近の5 歩と跨ぎ幅において,通常歩行時の歩幅+2.5 標準偏差を超えて変化があった歩幅を歩幅拡大,平均−2.5 標準偏差を超えて変化があった歩幅を歩幅縮小とした。障害物直近の5 歩と跨ぎ幅において歩幅拡大が含まれている試行を拡大戦略,障害物直近の5 歩に歩幅縮小が含まれている試行を縮小戦略,歩幅の拡大・縮小ともに含まれない試行は調節なしと分類した。麻痺側で障害物を跨ぐ場合と非麻痺側で障害物を跨ぐ場合で拡大戦略・縮小戦略・調節なしに分類された試行数をχ2 検定を用いて検討した。麻痺側,非麻痺側のどちらかで優先的に歩幅調節が行われているかを検討するためにFisherの直接確率計算を用いて歩幅調節位置ごとの歩幅調節数を麻痺側と非麻痺側で比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者に対しては測定前に研究内容について説明し,書面にて同意を得た。【結果】麻痺側で障害物を跨ぐ場合では拡大戦略23 試行,縮小戦略57 試行,調節なし21 試行であった。非麻痺側で障害物を跨ぐ場合ではそれぞれ37 試行,27 試行,6 試行であった。χ2 検定の結果,分類された試行数の偏りは有意であり(p<.01),麻痺側で障害物を跨ぐ場合では縮小戦略と調節なしが多く(p<.01),非麻痺側で障害物を跨ぐ場合では拡大戦略が多かった(p<.05)。歩幅調節位置において,障害物から1 歩手前で歩幅を縮小した試行は麻痺側21 試行,非麻痺側38 試行と非麻痺側で有意に多かった(p<.01)。2 歩手前では麻痺側41 試行,非麻痺側11 試行と麻非側で有意に多かった(p<.01)。3 歩手前では麻痺側7 試行,非麻痺側19 試行と非麻痺側で有意に多かった(p<.01)。【考察】本研究で明らかになったことは1)脳卒中患者が歩行中に障害物を跨ぐ場合,障害物跨ぎ足によって歩幅調節方法が異なっており,麻痺側で障害物を跨ぐ場合では障害物へ到達するまでの歩幅調節において歩幅を縮小する2)脳卒中患者は麻痺側,非麻痺側のどちらかで優先的に歩幅調節を行っているわけではないことである。障害物へ到達するまでに歩幅を縮小することで歩行速度を低下させ,障害物を跨ぐ際の障害物への接触による安定性への影響を少なくすることができる。従って,脳卒中患者が麻痺側で障害物を跨ぐ場合には,障害物を跨ぐ際の安定性への影響を最小化するために,障害物へ到達するまでに歩幅を縮小していると推測される。【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者が歩行中に障害物を跨ぐ場合,障害物へ到達するまでの歩幅調節が跨ぎ動作の安定性に寄与する可能性が示唆された。従って,脳卒中患者があらかじめ障害物の存在を認識することは安定した障害物跨ぎ動作において有益であり,歩行中に障害物を認識し,回避するといった実践的な練習や,日常生活における障害物を認識しやすくする工夫が必要である。
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© 2013 日本理学療法士協会
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