抄録
【はじめに】 2012年5月9日から2012年11月8日までの6カ月間スリランカ国社会福祉省に短期青年海外協力隊理学療法士として配属されCBRプログラムを北中部州アヌラーダプラ県ラージャンガナヤ郡において社会福祉担当官(以下SSO)をカウンターパートとし実施した。2008年2月より10か月間、2009年8月より7か月間とラージャンガナヤにおけるCBRへの協力を行っており今回3度目となる。この活動経験を通し知見を得たので報告する。【スリランカ国、ラージャンガナヤ郡について】 スリランカ国は面積65610km²、人口2100万人、熱帯気候の国である。言語はシンハラ語、タミル語、英語が用いられる。ラージャンガナヤ郡の人口は35965名(男性17373名、女性18592名)、ほぼシンハラ人から構成される。面積は63.5km²である。【CBRへの協力目的】 CBR joint paperではCBRの概念を、障がいを持つ全ての人々のリハビリテーション、機会均等、ソーシャルインクルージョンのための総合的な地域開発の中の一つの戦略と定義され、障がい者自身とその家族、組織や地域社会、そして関連する政府、非政府の保健、教育、職業教育、社会的、その他のサービスの複合された努力を通じて実施されるとしている。スリランカのCBRは1980年にリサーチプロジェクトとして開始され、1984年に県や郡レベルのプロジェクトに拡大した。現在、社会福祉省に国家CBRプログラムのもとCBR Unitが設置され、当郡では1998年よりCBRが開始された。各県・郡にSSOが配置され、当郡には2名のSSOが事務業務のほかフィールドでの活動を行っている。郡内の21村にCBRボランティアが約1名ずつ配置されている。当郡に障がい者として登録されている数は418名(男性182名、女性236名)であり、そのうち身体障がい者は175名(重複障がい者20名を含む)である。今回の派遣目的として、障がい者やその家族とCBRボランティアに対する助言、また障がいに対する認識の向上やアプローチの方法の伝達が求められた。【倫理的配慮】 当院の倫理規定に基づき、関係各位に承諾を得た。【方法と結果】 1)SSOとCBRボランティアとともに家庭巡回を行い身体障がい者151名に対し理学療法サービスを提供した。内訳は脳血管障害後遺症33名と最も多く次いで脳性まひ26名、筋ジストロフィー6名、下肢切断10名、脊髄損傷6名であった。2)CBRボランティアや身体障がい者とその家族を対象としたワークショップでは40名の参加者に対しスリランカの理学療法士を講師に迎え脳血管障害や脳性まひに対する理学療法や日常生活動作の講義、また筆者は脳血管障害と脳性まひ児への理学療法の方法の資料作成と講義を行った。3)当郡内のフィールドトリップで、障がい者用に家屋改造した家や国の補助金で建てたバリアフリーの家の見学を13名のCBRボランティアやSSOを対象に実施した。4)啓蒙活動としてCBRについて、生活習慣病予防やその二次的後遺症について紙芝居を作成し実施し、また血圧と体重の測定を行った。5)活動報告を月ごとに社会福祉省や群役場に行い、群役場の掲示板のアップデートやバナーの作成を通し地域へ活動のアナウンスを行った。【考察】 協力目標に以前と同様障がい者の生活の質の向上のためCBRに関わる人々の知識や技術の向上と今回からの目標として生活習慣病の二次的後遺症の認識向上を挙げた。今回家庭巡回で家屋改造や障がい者のケアを適切に行えているケースが見られた。またワークショップの内容も以前は概要の説明を多く要求されたが、今回ケースに適応できるよう具体的な内容を要求され実施した。その後SSOやCBRボランティアの障がい者やその家族への助言が具体的となった。2009年の当郡の障がいの内訳は脳性まひ26名が最も多く次いで脳血管障害17名であった。現在スリランカでは生活習慣病が医療に行ける大きな問題の一つである。今回は脳血管障害後遺症が最も多く生活習慣病の影響が考えられ、これに対する啓蒙活動も行い、病院受診など認識の変化が見られた。しかし、障がい児の学校問題や障がい者の就労や生活状況など残された課題はある。【所感】2008年の初回協力時より障がい者の外出する光景や家庭内でのケアの向上を確認することもでき、CBRの効果は家庭内から地域へと徐々に拡大しつつあるが、継続的な介入は必要である。当郡はCBRモデルケースとなっており、今後他の地域への拡大も視野に入れたCBRプログラムの実施が望まれる。また生活習慣病に対するアプローチは継続的に行う必要がある。