抄録
【はじめに、目的】運動イメージは、随意運動が困難な患者に対して身体的負荷を増加することなく、中枢レベルでの運動を反復できる有効な治療手段の一つとして考えられている。そこで我々は中枢神経疾患患者の特徴である筋緊張亢進に対して、これを抑制させる一つの手段としてリラックスイメージを利用することができるのではないかと考えた。本研究では最大収縮後の弛緩を利用したイメージをすることにより脊髄神経系機能の興奮性変化を検討し、その後のF波の変化について考察した。【方法】対象は、本研究に同意を得た健常者20 人(男性15 人、女性5 人)、平均年齢21.2 ± 0.69 歳とした。方法は以下のように行った。まず被験者を背臥位とし、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した(安静試行)。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30 回とした。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼で天井を注視させた。次に最大収縮後の弛緩をイメージさせる前段階として左側母指と示指による5 秒間の最大努力による持続的対立を2 回行い、最大ピンチ力を測定した。そして最大収縮後の弛緩の練習を行った後に十分な休憩を取り、次にこれをイメージした状態で左母指球筋よりF波を測定した。さらに運動イメージ試行直後、5 分後、10 分後、15 分後においてもF波と同様に出現頻度・振幅F/M比を測定した。本研究では最大収縮後の弛緩の運動イメージの効果を検討するために、運動イメージ試行、直後、5 分後、10 分後、15 分後それぞれについてDunnett検定を用いて安静試行と比較した。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。なお、本研究は関西医療大学倫理委員会の承認を得ている。【結果】振幅F/M比、出現頻度はともに安静時と比較して有意差を認められなかったが以下の傾向があった。最大収縮後の弛緩を利用した運動イメージにおいて、振幅F/M比は安静時と比較してイメージ中は減少傾向であり、イメージ直後は増加傾向にあったが、その後は安静時に近づいた。出現頻度についてイメージ中は安静時と比較して減少傾向であり、5 分後、10 分後、15 分後に関しては徐々に減少傾向がみられた。また立ち上がり潜時に関しては各試行での差異は認めなかった。【考察】振幅F/M比および出現頻度は脊髄神経機能の興奮性を表す指標とされている。本研究の結果より、振幅F/M比は安静時と比較して運動イメージ中は減少傾向がみられた。またイメージから5 分後、10 分後では振幅F/M比は減少傾向がみられた。このことから運動イメージから5 分後、10 分後では脊髄神経機能の興奮性が減少させることが示唆される。次に運動イメージにおけるF波出現頻度は安静時から一様に減少傾向がみられる結果となった。このことから最大収縮後の弛緩を利用した運動イメージは、イメージ直後から15 分後にかけて持続的に脊髄神経機能の興奮性を減少させる可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】本研究より臨床において中枢神経疾患患者に対して筋緊張抑制するために最大収縮後の弛緩を利用したリラックスイメージは有用である。しかし、イメージ直後は脊髄前角の興奮性が増加したため、今後は脊髄前角細胞の興奮性を増加させないために、治療者側が具体的にイメージの設定・指示をする必要があると考える。