抄録
【はじめに、目的】整形外科術後における疼痛や患肢の免荷状態は、脳の可塑的変化を引き起こし、皮質レベルでの感覚運動野の領域が減少すると言われている。臨床において『自分の足ではない感じがする』、『足に力が入りにくい』と訴える例もあり、ボディイメージ、運動イメージの低下が考えられる。運動イメージ想起方法に手足の写真を利用したメンタルローテーション(以下、MR)では、脳の運動関連領域に活動が見られることがわかっており、先行研究において、慢性期疾患への介入効果も報告されている。しかし、整形外科術後疾患に対する急性期における効果を報告したものは少ない。今回、膝前十字靱帯(以下、ACL)再建術後例においてMRを自主練習として行うことにより、どのような影響を与えるか検証することを目的とした。【方法】対象は、平成23年7月から平成24年11月までに当院において自家半腱様筋腱を用いたACL再建術後患者12名(46.4±8.5歳)とし、膝以外に障害がある場合や神経系に問題がある場合は除外した。対象者はリハビリテーション開始日より、無作為にMR群6 名(男性4 名、女性2 名、年齢47.7 ± 5.5 歳)と対象群6 名(男性5 名、女性1 名、年齢45.1 ± 11.1 歳)の2 群に分けた。両群ともに毎日標準的なリハビリテーションを実施し、MR群にはそれに加え、簡易型MRを自主練習として毎日約20 分実施するように指導した。簡易型MRとして0 度、90 度、180 度、270 度と回転させた足の写真を60 枚入れたクリアファイルを使用し、回転した足の写真を見ることで運動イメージの想起を促し、その写真が右足か、左足かを回答してもらう事とした。調査項目は、膝屈曲ROM・位置覚の測定とした。膝屈曲ROMは、ゴニオメーターを用いて、術後1 週と術後2 週に測定した。位置覚の測定は、術後2 週と術後4 週に測定し、方法は、腹臥位にて健側膝関節を他動的に30°、50°、70°屈曲させ、設定角度に達した時点で5 秒間停止させた。この停止中に膝関節の位置を記憶させ、膝関節を開始角度に戻した。その後患側膝にて設定角度まで自動運動にて再現してもらい、ゴニオメーターにて1°刻みで測定した。各角度3 回ずつ測定し、設定角度に対する再現角度から誤差角度の平均を算出した。また、当院における術後の外固定は1 週間であり、術後3 週より部分荷重、術後5 週より全荷重開始となる。統計学的解析には二元配置分散分析、多重比較にはHolmの検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】すべての対象者に本研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】術後1 週における膝屈曲ROMは、MR群と対照群ではそれぞれ87.5 ± 8.2°、82.5 ± 9.9°(P>0.05)であった。術後2 週では129.2 ± 4.9°、115.8 ± 10.2°(P<0.01)であった。術後2 週における位置覚を従属変数とした二元配置分散分析の結果、有意な交互作用を認め、Holm検定の結果、設定角度30°での誤差は11.3 ± 7.4°、9.8 ± 7.5°(P>0.05)、50°での誤差は6.9 ± 5.5°、8.8 ± 9.2°(P>0.05)、70°での誤差は5.9 ± 4.1°、7.4 ± 6.8°(P>0.05)であった。また、術後4 週における設定角度30°での誤差はそれぞれ5.1 ± 4.1°、12.8 ± 6.7°(P<0.01)、50°での誤差は4.7 ± 3.2°、12.6 ± 5.7°(P<0.01)、70°での誤差は5.1 ± 4.0°、6.9 ± 4.8°(P>0.05)であった。本研究の結果、MR介入群では術後2 週での膝屈曲ROMが対照群に比べ有意に増加した。膝屈曲30°・50°の位置覚においても術後4 週では、対照群に比べ有意に誤差が少ない結果となった。【考察】今回、ROM、位置覚ともにMR群で効果が認められたのは、術後早期にMRを実施することで感覚運動野領域の減少を抑制し、ボディイメージの形成や防御性収縮が低下したためと考える。また、ACL損傷のある患者では、メカノレセプターの損傷により位置覚が低下するとの報告が多くみられるが、膝関節全体としてみれば、ACLからの求心性の信号はわずかな部分しか占めていないという報告もあり、位置覚には半月板、関節包、筋紡錘などによる関与も考えられる。MRを用いた運動イメージの導入により、筋紡錘の情報を積極的に中枢神経系で処理しようとすることを促し、自身の身体を理解しやすくなったものと考える。膝位置覚は患者満足度やスポーツ復帰と相関があると言われており、今回位置覚に効果が認められたことは興味深い。【理学療法学研究としての意義】術後早期にMRを介入することで、ROM・位置覚に効果が認められた。位置覚の低下は再受傷のリスクを高めることから、術後早期からのMR介入は有用であると考える。