抄録
【はじめに、目的】 肩腱板修復術術後の、組織学的修復が完成するのはおよそ術後8週と言われている。この術後8週までの期間の後療法は、各施設により様々であるのが現状であると思われる。また、術後固定に使用する装具についても、外転角度の違いによる差が生じており、肩甲帯の運動の開始時期や洗面・食事・運転動作を許可する時期など、ADL動作の許可時期に関する統一された見解はない。これらの動作における腱板および肩甲骨周囲筋群の筋活動量を知ることは、術後早期の後療法を安全に進める重要なポイントである考える。そこで今回我々は、当院で使用している装具装着下(枕有・無)におけるADL動作時の肩関節周囲筋群の筋活動量を調査し、外転角度の違いによる比較、ならびにADL動作の開始時期の妥当性について検討したのでここに報告する。【方法】 対象は、肩関節に愁訴を持たない健常成人男性11名(平均年齢36±9.3歳)で、全例右利きであった。被検筋は、棘上筋・棘下筋・三角筋(前部線維)・上腕二頭筋の4筋とし、装具装着枕有りと枕無し2パターンで、「箸で食べる」「書字」「マウスを動かす」「顔を洗う」「運転動作」「肩甲骨挙上」「肩甲骨内転」の7項目に関して測定を行った。筋電計は、MED-9404(日本光電社製)を用い、計測と解析には神経伝導検査ソフトQP-964Bを用いた。筋電図導出方法は単極導出法(棘上筋・棘下筋刺入針)と双極導出法とし、電極間距離は表面電極で20mmとした。被検筋各々の徒手筋力検査を10秒間行って得られた筋電図波形のうち、中間の安定した5秒間から1秒間あたりの筋電図積分値が最大となる1秒間をサンプリングし、その筋電図積分値を最大随意等尺性収縮強度(Maximal Voluntary isometric Contraction:MVC)と定義した。筋力検査の肢位はすべて、背もたれを使用しない端坐位、足底接地とし、各動作時より得られた筋電図波形から、各筋の1秒間あたりの筋電図積分値が最大となる1秒間の筋電図波形をサンプリングし積分処理した。同じ動作を3回連続して行い、筋電図積分値の平均値をMVCで除した値を%MVCとして標準化した。最後に各動作より得られた%MVCを被験者間で平均化した。評価方法は、Smithらの分類を参考に、≦20%MVCを低活動量、>20%MVCを高活動量とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には、本研究の調査内容や起こりうる危険、不利益などを含め説明し、また、個人情報に関しては、学会などで研究結果を公表する際には個人が特定できないように配慮することを説明し同意を得た。【結果】 運転動作では、枕有りでは棘上筋(26.5%MVC)・三角筋(25.1%MVC)、枕無しでは棘上筋・棘下筋(27.7%MVC)・三角筋(23.4%MVC)で高活動量を示した。肩甲骨挙上では、枕有りでは棘上筋(33.7%MVC)・棘下筋(22.2%MVC)、枕無しでは棘上筋で高活動量を示した。肩甲骨内転では、枕有りでは棘上筋(42.2%MVC)、枕無しでは棘上筋・棘下筋(30.6%MVC)で高活動量を示した。その他の動作では、枕有り・無しともに低活動量を示した。【考察】 今回、Smithらの報告を参考に%MVCを用いた筋活動量を調査し、本研究を行った。高値を示した項目の中で、運転動作では、ハンドルを左に切る際右肩関節は外転から水平屈曲方向への運動が必要となるため、棘上筋・棘下筋・三角筋の筋活動量が高値を示したのではないかと考える。肩甲骨挙上動作では、Sling jointである肩甲上腕関節内で、肩甲骨の挙上に伴い相対的に上腕骨頭を求心位に保持するため棘上筋・棘下筋が収縮したのではないかと考えた。また、肩甲骨内転動作についても同様に上腕骨頭の求心位保持のため棘上筋・棘下筋が収縮したのではないかと考えた。今回の調査より、枕有り・無しにおいて筋活動量に大きな差は認められなかった。ADL動作での腱板の筋活動量を考慮すると、腱板修復術術後早期での肩甲骨の挙上・内転運動は避けるべきであり、また、運転動作に関しても外転・水平屈曲などの動作は避けるよう指導が必要である。【理学療法学研究としての意義】 日常生活動作における、肩甲骨周囲筋群の筋活動量を知ることで、腱板修復術術後早期のリハビリテーションを進めていく中で、早期から許可される動作とリスクが高いため開始時期を遅らせる必要がある動作を判別することができる。また、腱板の修復時期を考慮しながら、実際に行っている個人の各動作の特徴を把握し、安全で効率的な動作獲得のための個別指導が重要である。