理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-19
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一般口述発表
掌蹠膿庖症に合併する胸肋鎖関節炎により肩関節運動制限を呈した症例に対する理学療法介入報告
シングルケーススタディ
市川 塁繁田 明義
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抄録

【はじめに、目的】掌蹠膿庖症(palmoplantar pustulosis以下、PPP)に合併する胸肋鎖関節炎により肩関節運動制限を呈した症例を経験した。本疾患に対する理学療法介入の報告は少ない。そこで我々はその治療経過報告から、理学療法介入の有用性や治療介入のポイントを検討したので報告する。【症例紹介】症例は40代女性、やせ型、約10年前にPPPを発症し、薬物療法等による加療歴あり。繰り返す左前胸部・左肩周囲の痛みが継続し、6ヶ月前に突然疼痛増強した。薬物療法にて改善せず、理学療法実施となった。身体所見では、左鎖骨近位部の腫脹が認められ、左肩関節の運動時痛(部位:左後頚部~左上腕近位外側と左前胸部)・夜間痛・可動域制限が著明に認められた。MRI所見では、T1Wで低信号を呈する鎖骨の過形成像とSTIRで高信号を呈する周囲軟部組織を含む左鎖骨近位部・胸骨柄・胸鎖関節下方の炎症像を認めた。治療は週1~2回1単位の理学療法のみであり、また症例の生活背景は、母親の介護と主婦業を中心とした生活である。【倫理的配慮、説明と同意】当院の倫理審査委員会の承認を受け、症例に対し学会発表の趣旨を口頭及び書面にて説明し、同意を得た。【結果・経過】初期評価時には、左肩関節周辺の筋緊張亢進し、運動時痛・可動域制限が著明に認められた。そのため理学療法は、左肩周囲筋のリラクセーション・ROM ex・徒手にて筋促通訓練からはじめた。徐々に可動域改善が認められるも、左胸鎖関節の可動域制限が残存したため、左胸鎖関節に対し関節モビライゼーション・肩甲骨運動を介したROM exを加え実施していった。評価項目として、JOA score・ROM(肩関節屈曲・外転、肩甲上腕関節屈曲、胸鎖関節挙上・前方牽引)・NRS(運動時)・needをあげた。以下に、初期・3週後・8週後の経過を記載した。JOA scoreは、初期32点、3週後53点、8週後60.5点であり、内ADL点は、初期1点、3週後5点、8週後5.5点であった。肩関節屈曲は初期30°、3週後100°、8週後115°、外転は初期30°、3週後85°、8週後90°、肩甲上腕関節屈曲:初期30°、3週後85°、8週後100°であった。胸鎖関節挙上は初期5°、3週後10°、8週後10°、前方牽引は初期5°、3週後10°、8週後10°であった。NRSは初期8/10、3週後3/10、8週後2/10、であった。needは、初期は少しでも動かせるようになりたい、3週後は使えるようになってきてうれしいが、まだ少し怖い、8週後は今の状態を維持したい、であった。【考察】PPPは、手掌・足部に無菌性小膿庖を生じる慢性難治性皮膚疾患である。原因は不明とされ、全体の約10%に骨関節炎が認められると報告されている。その治療方法は様々存在するが、一定した治療効果の報告は認められない。初期の状態では、痛みによる過剰な筋緊張が肩関節の可動域制限・疼痛を助長させていた。肩関節は複数の関節から構成され、その一部である胸鎖関節の炎症により、二次的に肩関節複合体の運動制限が引き起こされたと考えられた。そのため、上記した理学療法にて、肩甲上腕関節の可動域改善・痛みの軽減が図られ、ADL改善につながったと考える。ただし、胸鎖関節の可動域の改善は乏しく、さらなる可動域の獲得・ADL改善には至らなかった。胸鎖関節は、肩関節屈曲時に前方牽引・挙上・後方回旋運動がおこると言われている。本症例の胸鎖関節の可動域制限は著明で、肩関節の可動域制限を引き起こす主要な要因になっていた。また、そのため挙上時には、鎖骨下でのインピンジメント、胸鎖関節へのメカニカルストレスにより疼痛が生じていることが考えられた。本症例への理学療法は、原因不明の胸鎖関節炎ということもあり、胸鎖関節へ直接アプローチを行うべきか、またどのようなアプローチを行うべきか悩まされた。症状の経過を追いながら胸鎖関節可動域制限に対し関節モビライゼーション・ROM exを行っていったが、慢性的な炎症により変性した関節のため治療効果はあまり認められなかったと考えた。本症例の経験から、本疾患への理学療法介入効果の有用性が考えられ、また、理学療法のみのアプローチにおける限界と胸鎖関節に対する介入方法を再検討する必要性を考えることができた。【理学療法学研究としての意義】PPPに合併する胸肋鎖関節炎による肩関節運動制限に対する理学療法症例報告は少ないため、治療介入のポイントの研究またエビデンス構築にデータの蓄積が必要である。

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© 2013 日本理学療法士協会
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