抄録
【はじめに、目的】小児へ理学療法を提供する理学療法士は、障害児のみならず知的障害を伴う障害児を治療することが多い。その為に、知的障害に対する知見を深める必要があり、さらに、理学療法士に知的障害への合併を踏まえたアプローチが求められている。しかし、障害児の知的障害については発達検査で判定されることが多く、小児理学療法の阻害因子となる問題行動は明らかにはなっていないのが現状である。また、運動能力と問題行動について関連性についての報告は見られない。そこで本研究は理学療法を受けている障害児を対象に日語版 Aberrant Behavior Checklist(以下、ABC-J)を用いて粗大運動能力と問題行動に差があるか調査することを目的とする。【方法】対象は児童デイサービス・小児専門病院・身体障害者療護施設、一般病院・肢体不自由児母子通園施設等の施設を利用し、小児の理学療法を受けている障害児86名(年齢1歳4ヶ月~19歳10ヶ月、平均年齢8.5±4,7歳、 男性56名、女性30名)であった。対象の診断名は脳性麻痺34名、精神発達遅滞17名、てんかん8名、その他28名であった。GMFCSよる運動能力評価によって独歩可能群(レベルI~Ⅲ)52名と不能群(レベルⅣ~Ⅴ)35名に分類した。GMFCSとは脳性麻痺を対象とし粗大運動能力によってレベルI~Ⅴに分類するシステムである。レベルIが軽度の障害で階段昇降が可能なレベルであり、レベルⅤは重度の障害で車いす上でも姿勢が不良な状態を示す。検者は施設・病院に勤務する理学療法士13名と作業療法士8名とした。そして、各検者がよく理解している知的障害を伴う対象児に対してABC-Jを実施した。ABC-Jの項目は「興奮性」15項目、「無気力」16項目、「常同」7項目、「多動」16項目、「不適切な言語」4項目の計58項目からなる。使用方法は、対象をよく知る医療従事者をはじめとする両親、援助者等の検者が、質問紙の項目に対して、問題なし(0点)、少し問題(1点)、問題(2点)、大きな問題(3点)の4段階で採点し問題行動を評価する。統計にはR-2.8.1を使用し、可能群と不能群におけるABC-J各項目の比較にはマンホイットニー検定を用いた。5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は神戸国際大学倫理委員会の承認を受けた(承認番号G2009-004)。実施にあたり対象児の保護者に書面を用いて本研究の目的と方法を説明し同意を得た。【結果】「興奮性」では可能群5点、不能群7点(p=0.256)、「無気力」では可能群4点、不能群6点(p=0.219)、「常同行動」では可能群0点、不能群2点(p=0.029)、「多動」では可能群8点、不能群6点(p=0.735)、「不適切な言語」では可能群1点、不能群0点(p=0.940)であった。【考察】我々は未独歩の障害児では「無気力」が問題行動として問題となり、反対に独歩可能になると「多動」が問題となるといった粗大運動能力と問題行動は関連性があるのではないかと考えたが、本研究の結果から、粗大運動能力と問題行動において「常同行動」のみに有意差が見られた。このことから「常同行動」を除いた問題行動と粗大運動能力は関連性が少ないことが示唆された。また、「常同行動」に差が見られたことに対しては、この項目が全58項目中7項目と項目が少なく差が出やすいことと、運動能力の高い独歩可能群では不能群と比較して検者が異常行動として判断しやすい項目であるのではないかと考えた。本研究の限界は、評価対象が対象児に限られていることが挙げられる。我々は以前にもABC-Jの信頼性について報告した際、対象が極めて限られた範囲のため更なる調査の必要性を述べた。GMFCSとは脳性麻痺のみを対象としたシステムであり、本研究のようにさまざまな疾患の障害児を対象とすることに限界があることが考えられる。今後の課題は、ABC-Jは支援学校の知的障害児の薬物療法の効果判定として開発された検査法なので、障害児や乳幼児を対象にした調査を実施したこと。GMFCSとは脳性麻痺のみを対象としたシステムであり本対象のような障害児を対象としたとき分類に問題があること。年齢により問題行動は変化するとの報告もあり、対象の年齢層を統一した中で比較する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】知的障害から引き起こされる問題行動は小児の理学療法の大きな阻害因子の一つである。しかし、医学的な見地からみた問題行動に対する報告は極めて少ない。今回の報告は小児の理学療法の対象児に関する新たな情報を提供するものであり理学療法の研究として意義があると考える。