抄録
【はじめに、目的】 ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb:以下HAL)は,人間の身体機能を拡張,増幅,強化することにより,装着者の意図に合わせた動作を補助するロボットスーツである.HALの応用分野は福祉・介護分野における自立動作支援,理学療法での活用も期待されているものの,装着時の歩行特性などの基礎研究は少ない.本研究の目的は,HAL装着歩行特性を明らかにすることであり,基礎データ得るため健常若年成人を対象に快適歩行速度と最大歩行速度における歩行周期変数に及ぼす影響を比較分析した.【方法】 対象は,若年健常成人男性15名(平均年齢20.6±1.0歳,平均身長166.3±4.6cm,平均体重61.6±7.9Kg)であった.前後に3mの予備歩行路を設けた10mの直線歩行を行わせた.歩行速度は快適歩行速度及び最大歩行速度とし,その順で施行した.HALの制御モード設定は,HALの装着重量をキャンセルするが,積極的なアシストは行わない「粘性補償制御モード(Viscosity Compensation Controlモード:以下VISモード)」で,Walkモードの歩行速度最大にて実施した.歩行時間はストップウォッチ(HS4,シチズン時計)を用い,歩数は目視で計測した.靴底踵部分にマーカーを設置し,マークをもとに歩幅,歩隔をメジャーで測定した.歩幅の測定方法は,10m間の総歩数を2で除した歩数を基準に前後2歩ずつの計5歩を用いて測定した.それぞれのマーカーを結ぶように4歩分の歩幅を測定して平均値を算出した.歩隔の測定方法は,歩幅と同様に10m間の総歩数を2で除した歩数を基準に,前後3歩を用いて測定した.それぞれ2歩行周期分(4歩分)の距離の1/2に相当する個所の歩隔を測定した.このようにして得た歩隔データの平均値を算出した.得られた測定値より,歩行率と歩行速度を算出した.データはHAL装着時と非装着時の2群間について対応のあるt検定を用いて分析した.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,方法,参加による利益と不利益などの説明を十分に行い,同意を得た.対象者は全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した.【結果】 各歩行周期変数の平均値を示す.快適歩行速度では,1) 歩幅はHAL装着496.4mm,非装着693.0mm(p<0.0001),2) 歩隔はHAL装着157.2mm,非装着91.2mm(p<0.0001),3) 歩行率はHAL装着85.5%,非装着115.2%(p<0.0001),4) 歩行速度はHAL装着2.4km/h,非装着4.5km/h(p<0.0001)であった.最大歩行速度では,1) 歩幅はHAL装着668.5mm,非装着834.9mm(p<0.0001),2) 歩隔はHAL装着184.6mm,非装着93.1mm(p<0.0001),3) 歩行率はHAL装着111.4%,非装着141.9%(p<0.0001),4) 歩行速度はHAL装着4.2km/h,非装着6.6km/h(p<0.0001)であった.快適歩行速度,最大歩行速度共に全ての測定値で有意差を認めた.【考察】 本邦の20歳代を中心とした健常成人から得た種々の歩行速度における歩行周期変数と比較して,本研究での非装着歩行の変数の値はほぼ同様の傾向であった. 一方,HALを装着することにより,非装着時に比べ快適歩行速度,最大歩行速度共に歩幅,歩行率,歩行速度の値は低下し,歩隔は増加した. 本来,動作は各関節の3次元的な動きに対し,さまざまなレベルでの制約の影響を受けている.HALを装着することが健常人においては運動の新しい制約として加わり,歩行動作の制約条件に変化をもたらしたと推察した. HALの適応は,運動障害を持った脊髄損傷(不全麻痺)や脳卒中片麻痺が中心であり,装具などと同様,運動機能の補助や安定性を得るための制約数を増加させることにより歩行動作を補助している部分もあると考えた.【理学療法学研究としての意義】 HAL装着での歩行特性の基礎データを得た.実際の臨床場面においてはHAL装着での歩行特性を熟知して用いることで,より効果的なそしてより安全な運用が期待できる.