抄録
【はじめに、目的】体性感覚刺激時に脳活動を脳磁計で計測すると「体性感覚誘発脳磁場(Somatosensory evoked magnetic fields: SEF)」が観察される.正中神経などを電気刺激した際に得られるSEF波形と刺激強度や刺激周波数との関係については明らかにされているが(Nagamine, 1998),機械的触覚刺激によるSEFについての報告は少なく(Forss, 1994; Onishi, 2011),刺激強度や刺激周波数,刺激の空間的間隔の違いが脳活動にどのような影響を与えているのか不明である.電気刺激による体性感覚刺激は非日常的な刺激であり,通常の日常生活においては機械的刺激などによる皮膚変形が末梢神経を興奮させることが多い.そこで,本研究では,機械的触覚刺激時における刺激ピンの空間的間隔と脳磁界反応との関係を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人男性10 名(28.1 ± 7.9 歳)であった.SEFの計測には306ch脳磁計(Vectorview)を利用し,機械的触覚刺激には小さなピンが突出する刺激装置(T1-1101,KGS)を利用した.機械的刺激のピン径は1.3 mm,ピン突出長は0.7 mmである.刺激ピン数は2 本として,2 本のピン間隔を2.4 mm,4.8 mm,7.2mmの3 条件に設定した.また,刺激提示時間は1 ms,刺激周波数は1.4 Hzから1.5 Hzに設定し,刺激部位を右示指先端とした.3 条件のピン間隔をランダムに提示し,それぞれのピン間隔で200回以上の波形を加算平均した.誘発された磁界波形から,電流発生源(ECD)およびECDモーメント(皮質活動量)を算出した.解析にはマルチダイポール解析ソフト(BESA5.3)を利用した.さらに,機械的触覚刺激によるSEF と電気刺激によるSEFを比較するためにリング電極を利用して右示指先端の電気刺激(0.2ms持続時間,1.5 Hz,3 mA・6 mA強度)を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本実験を実施するにあたり所属機関の倫理委員会にて承認を得た.また,被験者には書面および口頭にて実験内容を説明し実験参加の同意を得た.【結果】機械的触覚刺激時のSEF波形は,刺激後29 ms(N20m成分),55 ms(P35m成分),125 ms(N120m成分)にピークを示し,ピン間隔の違いによるピーク潜時に有意な差は認められなかった.各条件でのECDモーメントを比較すると,刺激後29 msでは3.1 nAm(2.4 mm条件),3.5 nAm(4.8 mm条件),3.8 nAm(7.2 mm条件)であり有意な差は認められなかった.一方,刺激後55 ms付近では8.6 nAm(2.4 mm条件),9.8 nAm(4.8 mm条件),10.4 nAm(7.2 mm条件)であり,2.4 mm条件に比べて7.2 mm条件では有意に大きな値を示した(p < 0.01).また,刺激後125 ms付近では6.7 nAm(2.4 mm),7.6 nAm(4.8 mm),9.0 nAm(7.2 mm)であり,2.4 mm条件に比べて7.2 mm条件では有意に大きな値を示した(p < 0.05).電気刺激による感覚閾値は2.2 ± 0.3 mAであった.電気刺激によるSEF波形のピークは25 ms(N20m成分),42 ms(P35m成分),72 ms(P60m成分),128 ms(N120m成分)であり,3 mA刺激と6mA刺激でピーク潜時に有意な差は認められなかった.ECDモーメントをみると,25 msでは6.4 nAm(6 mA)と3.9 mA (3 mA),42 msでは6.5 nAm(6 mA)と3.2 nAm(3mA)であり,どちらも6 mAで有意に高い値を示した(p < 0.05).72 msでは6.9 nAm(6 mA)と4.9 nAm(3 mA)であり有意な差は認められなかったが,128 msでは8.1 nAm(6 mA)と5.3 nAm(3 mA)であり,6 mAで有意に高い値を示した(p < 0.05).また,機械的刺激時のN20m成分およびP35mのピーク潜時は電気刺激時のピーク潜時よりも有意に遅延していた(p < 0.01).【考察】リング電極を利用した皮膚電気刺激によるSEFは,正中神経刺激時に得られるN20m成分,P35m成分,P60m成分,およびN120m成分と同様の成分が観察されたと考えられる.また,電気刺激強度が半減することにより,N20m成分とP35m成分が半減することが明らかになった.機械的触覚刺激時には,N20m成分およびP35m成分のピーク潜時が電気刺激より遅い結果となった.これは,Hashimotoら(1987)が報告しているように機械的刺激により皮膚が変形してから各種感覚受容器が興奮するまでに要する時間だと考えられる.また,刺激ピン数が同じであるにもかかわらず,2 本の刺激ピンの距離が広がることにより皮質活動が増大することが明らかになった.これは,触圧覚受容器の密度が影響していると考えられ,ピン間隔2.4 mmに比べて,7.2 mmで刺激される受容器数が多いことを反映していると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究結果は表在感覚機能評価の評価基準を作成するための一助になると考えられる.【謝辞】本研究は,文部科学省科学研究費補助金基盤(B)および新潟医療福祉大学研究奨励金(発展的研究)の助成を受けて行われた.