理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-05
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セレクション口述発表
加速度センサを用いた歩行評価 脳卒中片麻痺者における歩行自立度の要因分析
貴嶋 芳文木山 良二大重 匡前田 哲男湯地 忠彦東 祐二藤元 登四郎関根 正樹田村 俊世
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抄録

【はじめに、目的】脳卒中片麻痺者の歩行能力向上には,十分な歩行機会の確保が必要であり,早期に自立歩行を獲得することが重要である.歩行中の加速度に関する研究は,腰部の加速度に着目したものが多く,下肢の加速度を含めた研究が少ないため,どの部位の加速度を用いるのが妥当か明らかになっていない.また,脳卒中片麻痺患者の歩行自立度は麻痺の程度や,麻痺側・非麻痺側の下肢機能などにより歩行自立度に関与する要因が異なることが推測される.そこで,本研究の目的は片麻痺患者の歩行中の腰部および大腿部の加速度と,歩行自立度との関係を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は,脳卒中片麻痺者43 名(Br. Stage IV25 名,Br. Stage V18 名,右片麻痺21 名,左片麻痺22 名,男性25 名,女性18 名,平均年齢64 ± 15 歳)であった.Br. Stage IVは,25 名中11 名が歩行自立群,14 名が歩行非自立群であり,Br. Stage Vは,18名中10 名が歩行自立群,8 名が歩行非自立群であった.加速度センサは,対象者の腰部と両大腿部にそれぞれベルクロを用いて装着した.対象者は,室内16mの直進路を快適速度で歩行し,中央10mを解析対象区間とした.10m解析区間から定常状態である中央の3歩行周期を抽出し,10m歩行速度,腰部と両大腿部の加速度のRoot Mean Square( 以下RMS),自己相関係数,中央周波数を算出した.歩行自立群と非自立群の比較に,対応のないt検定を用いた.歩行自立度に関する要因を解析するため,歩行の自立度を従属変数,腰部と両大腿部の加速度のRMS,自己相関係数を独立変数とし,尤度比の変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を行った.すべての統計解析は,SPSS 17.0J,(SPSS Japan)を用い,統計学的な有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本計測の際には,当該施設の倫理委員会の承認並びに対象者自身からのインフォームドコンセントを得た後,実施した.【結果】自立群と非自立群の比較では,歩行速度において,Br. Stage IV,Vともに,自立群で有意に速く,自己相関係数の比較では,Br. Stage IVでは非麻痺側大腿部の上下成分を除く,すべての加速度において有意な差を認め,自立群で高い値を示し,Vではいずれも有意な差を認めなかった.RMSの比較では,Br. StageIVでは腰部前後成分,非麻痺側大腿部左右成分および上下成分で有意に高い値を示したが,その他の腰部と麻痺側大腿部の加速度では有意な差は認めなかった.Vでは腰部と両側大腿部すべての加速度で有意な差を認め,自立群で高い値を示した.多重ロジスティック回帰分析では,独立変数を腰部加速度のみとした場合, Br. Stage IVでは要因として,腰部前後自己相関係数,腰部前後加速度RMSが採用され,判定的中率92.0%であり,Vでは要因として,腰部上下加速度RMSが採用され,判定的中率66.7%であった.一方,腰部と両大腿部の加速度を含む変数では,Br. Stage IVでは要因として,非麻痺側大腿部前後自己相関係数が採用され,判定的中率90.9%であり,Vでは要因として,麻痺側大腿部上下加速度RMSが採用され,判定的中率88.9%であった.【考察】今回の結果では,多重ロジスティック回帰分析の結果,腰部と大腿部の加速度により,歩行の自立度が判定可能であった.また麻痺の程度により歩行自立度に関与する要因が異なること,腰部の加速度だけではなく,大腿部の加速度を含めた分析が有用であることが示唆された.麻痺が重度であるBr. Stage IVの自立群では,歩行の定常性を高めて歩行の安定性を得ているのに対し,Br. Stage Vの自立群については,麻痺側下肢の機能向上に伴い,歩行の定常性が低下しても修正可能な身体機能を持っているため,加速度の定常性よりも大きさが重要な因子になると考えられた.歩行自立度の要因分析を,腰部の加速度のみを独立変数とした場合と,腰部と大腿部の両方の加速度を独立変数とした結果,腰部と大腿部の両方を含めた分析では,いずれも大腿部の加速度が採用された.腰部の加速度は,両側下肢により制御されるため,左右それぞれの下肢機能を十分に反映していない可能性があると考えられる.片麻痺患者のように左右の下肢機能の差が著しい症例を対象に,加速度センサを用い,歩行分析する際には,腰部だけでなく,大腿部にも加速度センサを装着することで,より信頼性の高い,詳細な分析が可能と考える.【理学療法学研究としての意義】先行研究による歩行分析は,腰部加速度センサを使用したものが多く報告されているが,本研究により腰部加速度センサのみでなく大腿部加速度センサを用いることで,脳卒中片麻痺歩行において腰部加速度,大腿部加速度からBr. Stage IVとBr. Stage Vのそれぞれの歩行自立度要因を解析する事が可能で,客観的で定量的な歩行評価指標となる事が示唆された.今後は,臨床場面での歩行評価や治療効果判定指標となる可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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