抄録
【はじめに、目的】当院回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟は、365日リハ・1日9単位のリハを提供しており、早期退院が実現する事が多い。よって、能力改善の余地を残している為、更なる歩行能力向上を目標に外来リハを開始する事が多い。一方で、回復期を経て生活期でリハを提供する以上、歩行能力向上は日常生活活動(以下ADL)の改善に留まらず、行動範囲の拡大及び社会参加の改善に結びつけなくてはならないと考える。行動範囲の調査は1980年代から始まり、日本においては2005年以降、Life-space assessment(以下LSA)を用いた研究が散見される。その中でLSAとADL及び歩行能力の関係について報告されているが、対象者は主に高齢者や要介護者であり、脳卒中片麻痺者に対する報告は多いとはいえない。そこで、今回我々は、在宅脳卒中片麻痺者を対象とし、歩行能力の一指標である10m所要時間(以下10mtime)とLSAの関係を明らかにし、LSAを10mtimeで説明できるか検討した。【方法】対象は、当院外来に週1回以上通院しており、脳血管障害(脳梗塞54名 脳出血84名)により片麻痺を呈した138名(男性81名 女性57名 年齢61.9±13.6歳 発症から964.8±779.2日経過)とした。なおデータを採用するにあたり、10mtime及びLSAを評価できない者、両麻痺もしくは失調症状を呈している者は除外した。10mtime測定方法は、10m区間前後に3mの予備区間を設け、ストップウォッチにて最大歩行速度における所要時間を計測した。また、LSAは社団法人日本理学療法士協会がE-SAS内で提唱している評価方法に従い、各質問について本人に答えをお願いした。なお、失語等により本人から答えを聞き出せない場合は、家族に対して質問し評価を実施した。統計学的手法は10mtimeとLSAの関係についてピアソンの相関係数を用い、相関係数を求めた。また、LSAを従属変数、10mtimeを独立変数とし単回帰式を算出した。LSAにより区分された生活空間レベルに則り、寝室群24名、住居内群30名、居住近辺群(以下近辺群)17名、自宅近隣群(以下近隣群)16名、町内群11名、町外群40名の6群に分け、各群の10mtime及びLSAについてクラスカルウォリス検定を行い、主効果が有意であった場合、多重比較法としてScheffeの方法を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。統計解析はJstatを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】10mtimeとLSAの相関係数は有意な相関を認めた(r=-0.576 p<0.01 y=-0.785x+71.642)。10mtimeは寝室群45.5±21.9秒、住居内群23.9±13.8秒、近辺群19.3±11.7秒、近隣群16.6±7.7秒、町内群9.2±2.4秒、町外群9.1±3.0秒であり、有意な差が認められた(p<0.05)。また、多重比較検定の結果、寝室群と近隣群・町内群・町外群に、住居内群と町内群・町外群に、近辺群と町外群に有意差を認めた(p<0.05)。LSAは寝室群35.2±10.1点、居住内群41.2±10.2点、近辺群42.1±9.9点、近隣群49.4±10.3点、町内群74.0±15.9点、町外群80.9±21.6点であり、有意な差が認められた(p<0.05)。また、多重比較検定の結果、寝室群と町内群・町外群に、居住内群と町内群・町外群に、近辺群と町内群・町外群に、近隣群と町外群に有意差を認めた(p<0.05)。【考察】結果から、10mtimeとLSAには相関があり、10mtimeからある程度、LSAにおける生活空間を説明することが可能であった。また、10mtime・LSA共に、自宅近辺が行動範囲である群(寝室群・住居内群・近辺群)と行動範囲が広い群(町内群・町外群)に有意に差を認める傾向があった。浜岡らは脳卒中患者25名を対象にLSAを従属変数、身体評価を独立変数として重回帰式を算出した結果、10m所要時間の関連が強く、退院後の生活活動量予測の可能性を示唆している。今回の結果は、浜岡らの報告と共通する部分もあり、10mtimeが行動範囲を説明する一因子となっていると考える。また、今回、自宅周囲が主たる行動範囲である群と屋外に外出する行動範囲の広い群において10mtime・LSAに有意差を認めたことから、生活範囲が自宅近辺である者と屋外に外出が可能な者を分ける指標として10mtimeが有効な指標になりうる可能性が示唆された。一方で、LSAを説明する指標として10mtimeのみでは不十分であり、今後、バランス・高次脳機能障害等、活動範囲に影響する可能性のある指標を含め多角的に検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】在宅脳卒中片麻痺者の10mtimeとLSAには関係があった。今後、調査を継続し、多角的に検討して行く事で、歩行パフォーマンスから生活空間・行動範囲の予測を検討できると考える。