抄録
【はじめに、目的】 弊社では、在宅におけるリハビリテーションサービスの提供におけるリスクマネジメントとして、事故を減らし、事故が発生してもすみやかな初期対応を可能にするため、平成19年からリスク管理委員会を設置し活動をしてきた。また、ヒヤリハットや事故報告を集計し、分析を定期的に行っている。リスク管理委員会の活動の成果で、職員のリスク管理意識も高まり、多数のヒヤリハット、事故報告が蓄積できるようになった。訪問リハビリテーションにおけるヒヤリハット、事故報告の内容には、病院で起こりうる転倒・転落などの患者に対する事故に加え、交通事故・違反などの移動中におこるヒヤリハット・事故事例が多いことは、過去にも述べた。事故内容を分析するにあたって、ヒヤリハット、事故報告に対するスタッフの認識の差が報告形式に現れており、今後の活動において必要なので、ここに報告する。【方法】 2010年8月~2012年7月に訪問療法士(作業療法士、言語聴覚士を含む)より報告された事故のうち、一番報告数の多かったリハビリテーションを提供する際に起きたヒヤリハット・事故と交通関係のヒヤリハット・事故に焦点を絞り、各事故の報告内容を精査し、リハビリテーションを提供する際に起きたヒヤリハット・事故に関しては、事故の程度を国立大学病院医療安全管理協議会の患者悪影響度のレベル分類にわけ、事故の程度を調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 個人情報の保護に関する法律その他の法令・ガイドライン等を遵守すると共に、本基本方針を定めており、ヒヤリハット報告書には、個人が特定できないようにイニシャルにての報告としている。【結果】 リハビリテーション提供時のヒヤリハット報告数は70件、事故数49件で、交通に関するヒヤリハット報告件数は22件、事故数は42件であった。リハビリテーション提供時のヒヤリハット・事故報告における患者悪影響度は、ヒヤリハットにおいては、インシデントレベル0が16件、レベル1が47件、レベル2が2件であり、事故報告においては、インシデントレベル2が34件、3aが14件、不明が1件であった。交通事故に関しては、国土交通省が定める事故の定義は、「人の死傷、物損など実際に被害が発生した出来事」としており、今回の報告内容でその定義に当てはまるものは、42件中32件で、残りの10件は、接触事故は起こったものの治療、修理は不要であるものであった。【考察】 弊社の事故報告としては、転倒などにおいては、実害がなくとも転倒があった時点で事故報告としている。交通に関する事故報告においても、接触があった時点で事故報告とし、よりリスク管理に意識を向けるようにしている。今回の報告内容を精査するとヒヤリハット報告に事故報告レベルのものが一部含まれていた。そのため、速やかに対応すべき事例に対応できていない可能性がある。報告手順を全職員に再度周知徹底をする必要がある。また、報告件数が増えるにつれ、リスク管理委員会の業務量も増え、対応に遅れが出る可能性が出てきている。 リスク管理委員会の活動目的は「事故を減らし、事故が起きたとしても速やかな対応をする」ことである。しかしながら、報告件数が増えたもののその対応に遅れが出てしまっては、本末転倒である。報告数が増えたことは、一定の活動の成果である。今後は、事故の程度についても、各職員が認識を深め、早急に対応すべき事故に関して適切に対応、報告できるようにしていく必要性がある。多くの病院が採用しているインシデント・アクシデントレポートマニュアルを参考にし、報告形式も変えていく必要がある。また、交通事故の程度についても患者悪影響度と同等のグレードを作ることで、一貫した対応マニュアルの作成に役立つであろう。 【理学療法学研究としての意義】在宅におけるリスクマネジメントのマニュアル化を確立することで、事故の発生を未然に防ぎ、事故が起きた際の対応も一貫して可能となり、利用者も職員も守ることができ、社会的信頼の獲得につながる。