理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-55
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ポスター発表
飼い主における動物に対する理学療法の認知度の調査研究
吉井 亜希加藤 仁志岡田 佳織
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抄録

【はじめに、目的】現在,欧米を中心に動物に対する理学療法(以下,動物理学療法)が行われており,欧米ではそれに関する文献も数多く見られる.本邦でも2007 年に日本動物リハビリテーション研究会(現在は日本動物リハビリテーション学会として活動している)が設立され,2010 年には日本動物理学療法研究会が立ち上げられ,動物理学療法が注目され始めている.しかし,本邦では動物理学療法を行う施設は限られており,それに関する文献も少ないのが現状である.本邦における動物理学療法に関する検討としては,全国の理学療法士と獣医師を対象とした動物理学療法への関心度の調査(浅利,2011)や動物理学療法への理学療法士のニーズの調査(石川ら,2012)があり,理学療法士や獣医師が関心を持っていることや,獣医師,動物看護師から動物理学療法への理学療法士の参入のニーズがあることは明らかになっている.しかし,クライアントである飼い主が動物理学療法を認知し必要としているか調査した研究は見当たらない.そこで本研究の目的は,本邦において代表的なペットである「犬」の飼い主を対象とした動物理学療法の認知度と必要性を調査し,現在動物理学療法がどの程度普及しているのかを明らかにすることとした.【方法】対象は平成24 年9 月〜10 月に群馬県内のドッグランに訪れた51 名の飼い主とした.アンケートの実施方法は2 肢選択と自由記載での回答形式のアンケートの実施用紙を作成しインタビュー形式にて実施した.質問内容は1)動物理学療法という言葉の認知度,2)動物理学療法の利用希望の有無とその理由,3)動物理学療法の利用経験とその内容,の計3 項目とした.アンケート結果の回答を集計し,飼い主の動物理学療法の認知度に注目して統計的に分析,検討した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対して,研究の目的,方法,参加による利益と不利益,自らの意思で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表方法等を記した書面と口頭による説明を十分に行い,研究参加に同意していただいた場合は署名にて同意書への同意を得た.また,すべてのデータの公表に当たっては対象者が特定されない形で行った.【結果】1)動物理学療法という言葉を知っているという回答は37.2%であった.2)動物理学療法を利用したいという回答は94.1%であり,利用したい理由は「人間(家族)と同様だと思うから」が16.7%と最も多かった.また,利用したくないと答えた理由は「動物理学療法というものを知らないから」,「金額次第」であった.3)動物理学療法を利用したことがあるという回答は17.6%であり,利用した内容はレーザー療法,運動療法,水治療法(プール)であった.【考察】動物理学療法という言葉を知っているとの回答は37.2%であったのに対し動物理学療法を利用したいとの回答は94.1%であった.つまり認知度は低いが,利用希望は多いことが示唆された.利用したいと回答した理由として「人間(家族)と同様だと思う」が最も多く,飼い犬を人間や家族同様に考える人が多いと考えられた.一方,利用したくないと回答した理由として「動物理学療法というものを知らない」,「金額次第」との意見もあった.動物理学療法を知らない,内容まではわからないことで不安があり,否定的な回答内容に繋がっていると考えられた.また,実際に利用したことがあるのは17.6%であり,利用経験率が低いことも認知度の低さと関係していると考えられた.今後,飼い主の動物理学療法に対する認知度を上げるためには,飼い主が動物理学療法の実施内容及び費用について知る機会を設ける必要があると考えた.現在,一部のペットショップでは犬を購入すると犬の医療保険についての説明がある.このようにペットショップや動物病院で動物理学療法という言葉に触れる機会が増えることで,動物理学療法やその内容の認知度の向上に繋がるのではないだろうか.【理学療法学研究としての意義】本研究において,飼い主の動物理学療法に対する認知度は低いことが示唆された.しかし,利用したいという希望は多かった.動物理学療法に携わる獣医師・動物看護師・理学療法士が実績を残すことで,動物理学療法を実施する施設が増加し,それにより飼い主が動物理学療法を知る機会が増加し,動物理学療法実践の機会が増加すると考えた.このことが飼い主の動物理学療法に対する認知度の向上に繋がると考えた.本研究は動物理学療法という理学療法士の新しい領域としての可能性を考える上で有意義であると考えられた.

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© 2013 日本理学療法士協会
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